原爆裁判の3つの焦点
1. 原爆投下行為は国際法に違反するか
戦争も法規によって行われなければならない。戦争は敵国の戦闘力を破砕することが目的で、戦闘力を持たない一般市民は戦闘の外に置かれるべきだから、無辜(むこ=罪のない)の市民を大量に虐殺した原爆使用が国際法に違反することは一見明白のようだ。しかし、生きるか死ぬかの戦争においては、厳格に使用を禁止されているもの以外は、何を使ってもいいともいえる。原爆は新兵器だから、これを禁止する規定はない。はたして勝てるだろうか
2. 原爆使用が国際法違反だとしても、加害者であるアメリカと投下に参画したトルーマン大統領らが、広島・長崎の被爆者に損害賠償や慰謝料を支払う法律上の義務を負うだろうか
彼らが人道上、許すべからざる鬼畜の行為をしたことは、何人も全く疑い得ないところだ。しかし、国際法上の不法行為は、条約によって設けられる国際裁判所で裁かれるのであって、それを国内の裁判所で国際法と国内法上の問題として裁くことができるか
3. 日本の裁判所がアメリカ国家を被告として裁判することはできない
日本の主権は当然のこととしてアメリカには及ばず、アメリカを拘束することはできないからだ。従って「原爆裁判」は、日本国家が吉田全権団によって対日平和条約19条で、日本国と日本国民が連合国と連合国民に対して全ての請求権を放棄したと捉えて、これを不法行為とし、日本国を被告として行われるのだが、この点に無理はないか。吉田全権団の不法行為は、国会が条約を批准したことによって治癒されたことにならないだろうか
こうした難しさから裁判は準備手続きが27回、2年近く続いた。第2回の同年10月22日、被告の国は、原告の請求棄却を求める答弁書を提出。「原爆使用が国際法違反かどうかは直ちに断定できない」「原告には損害賠償請求権はなく、もし仮にあったとしても法律以前の抽象的観念にすぎない」など、冷淡な姿勢だった。
原告側は釈明要求で、広島、長崎への原爆投下直後の1945(昭和20)年8月10日、当時の日本政府がアメリカ政府に、広島への投下が「無差別、残虐で戦時国際法違反」との抗議文を提出したことを指摘した。これに対しても国は「当時は交戦国としての抗議で、その立場を離れて客観的に眺めると、違法とは断定できない」と答弁した。
裁判が続いていた中、岡本弁護士の体調が悪化。ドラマの「雲野弁護士」と同じように、1958(昭和33)年4月5日、脳出血で死亡した。ドラマの裁判は「岩居」と「轟太一」(演:戸塚純貴)、「山田よね」(演:土居志央梨)で進められるが、実際は松井弁護士を中心にした弁護団(判決時は9人)が進めることになった。(「『虎に翼』の事件史#4」につづく)