「あれだけの間違いをして、ひとりだけでなく、多くの人間の人生を狂わせたのにまだ警察はネパール人を疑っているのかと、怒りというより、哀しみがこみ上げてきました」

 1997年、東京電力の社員である女性が殺害された「東電OL殺人事件」。当初はネパール人の男性が犯人として逮捕されたが、のちに冤罪と判明。しかしその後も警察がネパール人犯人説をやめない理由とは…。ノンフィクション作家の八木澤高明氏の新刊『殺め家』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

アパートは神泉駅前にあって人通りが絶えない。この部屋に被害者は私娼として客を連れ込んでいた ©八木澤高明

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その後の「東電OL事件」

 警察は、今も犯人逮捕のため捜索を続けている。

 私は、日本に暮らして30年以上、日本語も堪能なネパール人の男性から思わぬ話を聞いた。

 彼は、ゴビンダさんが逮捕されてから無罪判決が下されるまで、15年以上にわたって、ゴビンダさんの家族が来日した際のサポートを続け、ネパールから政府要人が来た際には通訳などもしている。

「ゴビンダさんに無罪判決が出てから、半年ぐらいしてからですかね。突然警察の人が家を訪ねて来たんです。何のことかと思うじゃないですか。そうしたら、ゴビンダさんの事件のことで犯人を探しているから、協力してくれと言うんです。そのことなら断る理由はありませんから、近所の喫茶店に移動したんです」

「どんな内容だったんですか?」

「刑事さんはまだ30代ぐらいの若い人でした。事件の時は、警察官をやっていないですよ。その人が私に見せたのはマークしているという人間のリストでした。そのリストは4枚ぐらいの紙に名前が書いてあったんです。それらはすべてネパール人の名前でした」

「警察はまだネパール人を犯人だと思っているんですか?」

「そうなんですよ。中には私の友人の名前もあったんです。そのことを友人に伝えたら、当然ですけどまったく身に覚えがないので、びっくりしていましたよ。そのリストを見た時、あれだけの間違いをして、ひとりだけでなく、多くの人間の人生を狂わせたのにまだ警察はネパール人を疑っているのかと、怒りというより、哀しみがこみ上げてきました」