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――気づかれない方も?

村田 もしくは気づいても声をかけられない方も。僕自身も靴が好きなので、男性の革靴の水気をとって、ソールの泥だけ少し落として置いておくと、帰りにそれをちらっと見られて、「さすがだね」って言ってくださる社長さんとか会長さんとか。

 そういうことが、工夫次第でできる部署なんです。下足番はひとりでやらないといけないから、自分なりの工夫がお客さんに伝わって「ありがとう」と喜んでいただけると、自分のなかでなにかが決まって、すっごく気持ちがいいんですよ。伝わったっていう感覚があって。

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――先ほど玄関から外に出るとき、靴の左右をちょっとあけて置いてくださっていて、いいなあって。

村田 それもね、やっていると気づくんですよ(うれしそうに)。ぴっちり揃えて置いておくと、履きにくいでしょう?

――今日のお話のなかで、一番いいお顔をされています。

©志水隆/文藝春秋

村田 下足番は面白いですよ。僕、いまでも下足番やりたいですもん。ものすごく勉強になります。料理人になる人は、絶対下足番やったほうがいいと思います。

 そのときは商社の営業的な頭しかなかったということもありますが、お客さんと話をして、しっかり向き合うと、自分の会社がどういうものかすごくよくわかるんですよ。だから、どういう人がこのお店に来るのか見ておかないと、後々(経営者としての道を)踏み外すなっていう気持ちはありました。

 だって、一食何万円もするんですよ、ごはんを食べるだけで。どんな人が来られるのかなって、気になりません? 僕は(料亭に)行ったことがなかったですから。

新婚旅行がわりに、ロンドンに語学留学

――下足番はどれくらいされたんですか?

村田 1年半ほどやって、その後、けっきょく全部の部署を回りました。まずは経理でお金のことを、それから帳場といって予約をとる部署があるんですが、本店で予約をとるだけでいまは5人の正社員がいまして。そこでお客さまからの電話やメールの受付を担当して、そのあとロンドンに行ったのか。

――ロンドン?

村田 「英語をしゃべれるようになれ」って大将に言われて、新婚旅行がわりにということで、ロンドンに4カ月の語学留学に。僕と妻とふたりで。

 蓋を開ければ、旅行でもなんでもなくて、月曜から金曜の朝9時から夕方5時まで、語学学校にふたりで通ってたんですよ。電車とバスを乗り継いで。