もう1つのキーワードは「えきねっと限定販売」だ。JR東日本はきっぷ販売の自動化と窓口の無人化を進めていて、インターネット予約システムの「えきねっと」の利用を広げたがっている。そこで「キュン♡パス」のような格安のきっぷをえきねっとで販売し、新幹線や特急列車の指定席を取り、駅の指定席券売機で受け取る経験を多くの人にしてほしいのだろう。

 私はJR東日本が窓口の廃止を急ぐ考え方には賛同できないけれど、えきねっと限定で魅力的なきっぷが登場すること自体は大賛成だ。たくさん売っても窓口が混まないから、どうしても窓口対応が必要な人の列も短くなる。

みどりの窓口 JRE MALLより

「青春18きっぷ」の愛好家に乗り換えてほしい意図が?

 さらに深読みすれば、「青春18きっぷ」に慣れ親しんだ大人たちに、いくらかでも単価の高いきっぷを買ってもらいたいという意図も透けてくる。

ADVERTISEMENT

 青春18きっぷは2024年の冬シーズンから大幅に仕様を変更した。

 以前は「指定期間のうち任意の5日利用可能」、または「指定期間内で1日あたり同一行程に限り複数人の利用が可能」だった。しかし新たなルールでは、連続3日利用版と連続5日利用版になった。値段は連続5日版が据え置きの1万2050円、連続3日版は1万円だ。自動改札に対応したため、複数人の同時利用はできない。

 JRグループはこの改定を「お客様のニーズに合わせた」と説明している。きっぷの販売データや、青春18きっぷに付属するアンケートを回収しているから、それなりに根拠はあるのだろう。

 しかし、従来の青春18きっぷ愛好家は「改悪だ」という。指定期間のなかで任意の日に旅をすることはできなくなり、2回分だけ使って残りの3回分を金券ショップで売るとか、それを安く買うというテクニックも使えなくなった。

 青春18きっぷは、18歳以上の大人も買える。だから利用者は若者だけではなく、シニア層も多い。年金のやりくりの中で旅をするシニア層にとっては良いきっぷだ。しかし本来は、可処分所得が少ない若者に鉄道旅を楽しんでほしいという趣旨で作られている。

 JRにしてみれば、余裕のある大人には青春18きっぷではなくもう少し単価の高い旅をしてもらいたいのは自然なことだ。もともと、きっぷの金券ショップへの転売はJRにとっては好ましくない。

JREモールメディアより

 余裕があるシニアには「大人の休日倶楽部」に入会してもらい、特急・新幹線に乗り放題の「大人の休日倶楽部パス」を買ってほしい。そこで、日程が短くて料金が少し上がってもおトク感のあるきっぷを作ったのが「キュン♡パス」なのではないか。

 他にもおトクなきっぷがあり、これからもミドル層やシニア層に向けて「青春18きっぷよりは高いけれども、メリットもある」というきっぷが増えると予想する。

 青春18きっぷの元々のターゲットユーザーは「時間はあるけれど使えるお金が少ない人」で、典型的な苦学生モデルだ。

 しかし大人になるにつれて可処分時間は短くなり、可処分所得は増えていく。そうした人たちが新幹線の使えない青春18きっぷで旅をするとなると、有給休暇を使うなど苦心して時間を捻出する必要がある。5連休が取れず2日分が無駄になり割安さを存分に享受できなかった、という場合もあるだろう。

「大人の青春18きっぷユーザーのみなさん、無理して青春18きっぷを使っていませんか。特急や新幹線を使えるきっぷのほうが、旅を楽しめるのではありませんか」

「キュン♡パス」のハートマークに、そんな気持ちが込められていそうだ。