この二月、東宝が突如として丸山誠治監督の戦争映画を一気にソフト化――しかもBlu-rayで出してきた。
そのラインナップには映画史全般で捉えても屈指の傑作『太平洋奇跡の作戦 キスカ』をはじめ、メジャー作が並んでいる。ただその中に、驚愕の一本が含まれていた。
それが、今回取り上げる『南十字星』である。
市川崑監督『細雪』、橋本忍監督『幻の湖』などとともに「東宝創立五十周年記念作品」として公開された作品だが、現在に至るまで長らくVHSもDVDも出ていなかった。それがついにソフト化されたのだ。筆者としても、実はこれが初見の機会となる。
太平洋戦争中、日本の占領下にあったシンガポールを舞台に物語は展開する。日本とオーストラリアの合作であるため、本作では敵対するオーストラリア側も厚めに描かれているのが、大きな特徴だ。
日本軍の艦船を襲撃するため、イギリス軍はオーストラリア軍と共同で特殊部隊を結成、現地へと潜入させた。が、日本の偵察に見つかり、交戦の末に捕虜となる。日本の軍人の多くが捕虜たちに厳しく接する中、通訳官として現地に赴任している田宮(中村敦夫)は文官としての矜持から、捕虜たちを温かく遇していた。やがて、田宮はペイジ大尉(ジョン・ハワード)と「ミノル」「ボブ」と呼び合うほどの友情を育む。
南方戦線での捕虜との友情というと、翌年に公開された『戦場のメリークリスマス』と期せずして似た設定になっている。ただ、個人的な好みとしては、本作が勝る。
それは、脚本が須崎勝弥であることが大きい。特攻隊の生き残りである須崎は、『キスカ』をはじめ多くの戦争映画で戦死や殉死を決して美徳とは描かず、生き続けることの尊さを訴え続けた。
本作を観ると、その想いは敵兵に対しても変わらないことがわかる。特殊部隊の行動は国際法に明確に違反しているため、彼らに死刑判決が下る。それでも田宮は助命のために必死に奔走する。だが、状況は変わらない。それならばせめて尊厳ある死を――と、処刑の瞬間まで彼らが生を謳歌できるよう取り計らうのだ。
そして、斬首されるペイジは、その介錯人に田宮を指名した。それが、ペイジにとって何よりの友情と信頼の証だったのだ。苦悩の果て、田宮は剣をとることになる――。
二人に限らず、両陣営は互いに軍人同士としての敬意を示し合っている。全ては、この状況下では当然の役割を、それぞれが全うした結果でしかない。それが悲劇になるのが、戦争なのだ。戦中派作家の、強いメッセージが伝わる。
