〈結局2誌とも1950年には休刊に追い込まれた。「敗戦前後に大金を手にした田舎の印刷屋の内儀(ないぎ=おかみ)の“夢”と“道楽”にすぎなかったと見る向きもある」と読売の記事は厳しい。同年には夫と協議離婚。「夫が事務員とねんごろになったからだ」と言っていた。「女学校を出たばかりで結婚。社会主義にあこがれ、理想主義的観念論者だった彼女には、その“不潔さ”が許せなかったようだ」「ウソとハッタリに固まりだしたのはこのころだという」(読売)。

 一方で彼女も戦後は大学教授、経済学の大学院生、会社の若い社員らを愛人にしていた。これに輪をかけたのが、問題の古荘千葉銀行頭取をはじめ政財界人と交際し、株にも手を出すようになったことだ。旭硝子(現AGC)や東京海上などの思惑買いで大損をし、雪ダルマ式に借金が増え、破綻の日が来たのだった〉

〈「四国の山野で馬を乗り回し、材木の切り出しを指揮してきた」「マルクス経済学者になるつもりだ」「伊豆の大島に銀行を建てて開発するんだ」「外国の銀行にも預金があり、店のデザイナーをパリに留学させる」「私は日本の『不渡り王』だ」などが彼女の語録。「レインボー」で知人らと食事しながら、「私の借金も8億円になったのヨ」と、猫が子どもを産んだ話と同じニュアンスで語った〉

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黒のドレスにハイヒール姿で自ら出頭し逮捕

 そんなミノブが逮捕されたのは3月25日。26日付読売朝刊はこう書いた。

 レインボー女社長逮捕


 銀座「レインボー」の詐欺事件で24日朝から行方をくらましていた同社社長、坂内ミノブ(47)は25日午後5時すぎ、東京地検特捜部に出頭してきた。ただちに栗本主任検事が千葉銀行東京支店や正喜商会をだまして抵当権を解除し、建物権利書を詐取した容疑で約2時間、取り調べた。坂内は犯行を否認したが、午後7時すぎ、逮捕状を執行。水上署に留置した。
 

 坂内は濃緑色のモヘア*のオーバーに黒のドレス、黒のハイヒールといういでたちで、長い髪をオーバーの背中まで垂らし、やや青白い顔だったが、カメラのフラッシュにも顔を背けず落ち着いた態度。2日間、弁護士とじっくり打ち合わせたうえ出頭したようで、家宅捜索に行った検察事務官が「朝、逃げ出したときには和服だったと聞いていたのに、どこで洋服に着替えてきたのだろう」と首をかしげていた。

*アンゴラの高級な毛織物 

“夢”に食われた女社長逮捕(読売)