ここはどこなのだろう。かつての文明の跡はあるが、人間の気配はない。空は高く、海は青く、緑は生き生きと生い茂る。しかし、ある日突然、世界は大洪水に襲われ、若い黒猫は旅立ちを迫られる――。

 ラトビア出身のギンツ・ジルバロディスさんによる長編第二作『Flow』が、このほど、第97回アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した。その授賞式にジルバロディス監督は3人の仲間とともに登壇。ラトビア初のオスカー像をチームで手にしたが、実はそれ自体、一つのトピックだった。なぜなら、6年前に発表し、高い評価を受けた前作『Away』は、彼がたった1人で作り上げた作品だったのだ。

ギンツ・ジルバロディス監督

「私は高校時代からずっと独学で、1人で映画作りをしてきました。だから今回が初めてのチームでの作品作りです。さまざまな葛藤と発見がありました。コミュニケーションの大切さ、その方法、テクニカルな分野での効率性など……。とはいえ、私たちは、この物語に登場する動物たちほど喧嘩はしませんでしたよ(笑)」

ADVERTISEMENT

 本作の主人公である黒猫は、前作の主人公だった少年と同じくひとりで旅に出るが、すぐに犬やカピバラ、キツネザルなどの仲間に出会う。そして同じ船に乗り、やがて協力し合うようになっていく。

「テーマは助け合うことの大切さです。もしくは自立と協調。例えば猫はとても自立していますが、自分勝手です。一方、犬は忠誠心はありますが、常に誰かの指示待ちです。全く正反対の彼らが、この旅を通して得るものは何か。それを伝えたいと思いました」

 面白いのは、動物アニメではおなじみの“セリフ(会話)”が一切ないことだ。

「この表現なら翻訳も必要ありません。そこに大きな可能性を感じました。また映像から、彼らが何を言いたいか、次第にわかるようになってくるはずです」と、自信たっぷりに言うだけあって、映像表現へのこだわりは半端ではない。

 
『Flow』
監督・脚本・音楽:ギンツ・ジルバロディス
2024年製作/ラトビア、フランス、ベルギー/85分
©Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five. 
配給:ファインフィルムズ

「意識したのはアルフォンソ・キュアロン、スピルバーグ、黒澤明などのロングショットです。アニメではありますが、実写の技法や影響も大いに取り入れた特別な作品なんです」

 謎めいた世界観や物語については「意味を解釈しようとするよりも、“体験”してほしい」と語る。もちろん、決して難解な作品ではない。美しい映像、愛らしい動物たちのしぐさや表情に誰もが心をほぐされること請け合いだ。

 次作の制作も順調とのこと。新たな傑作誕生のニュースが今から待ち遠しい。

Gints Zilbalodis/1994年、ラトビア生まれ。これまで手描きアニメーション、3Dアニメーション、実写など様々な様式で7本の短編映画を制作。2019年、長編デビュー作『Away』がアヌシー国際アニメーション映画祭コントルシャン賞ほかを受賞。また本作でも各国の賞を数多く受賞、高い評価を得ている。 

INFORMATIONアイコン

映画『Flow』
3月14日公開
https://flow-movie.com/