富士山を下ったミネラル天然水が豊富ということは…
そして、このほどよくミネラルを含んだ富士の伏流水、ウナギにも関わっている。湧き出た良質な水にウナギをさらすことで、泥臭さや生臭さがなくなり、ウマいウナギのできあがり。
三島は浜松などと違ってウナギの産地でもなければ養殖地でもない。それなのに明治以降ウナギが名物になったのは、富士の伏流水のおかげなのだ。まさに、自然の恵みそのものである。
ただ、戦後の人口増加・都市化などによって湧き水の量はだいぶ少なくなってきているという。昭和に入って現在の三島駅ができ、戦後の経済成長も相まって人口が急増し、市街地の範囲はだいぶ広がっている。
特に、かつては完全なる北の外れに過ぎなかった三島駅北側も、いまではすっかり都市の顔を持つ。JR東海の研修所に東レの工場、市立・県立の小中高や日本大学・日大三島高校などの教育機関がひしめいている。
いまでは文教町と呼ばれるこの一帯、戦前には陸軍野戦重砲連隊が置かれていた。まだ現在の三島駅がなかった時代、町の衰退をなんとか食い止めるべく誘致したのだという。それが時代が下って文教地区に生まれ変わり、町に活気をもたらすエリアになっているのだ。
いずれにしても、東京駅から新幹線で1時間もかからないという三島の町である。富士山の恵みを得て、また交通の要として発展してきた歴史を抱く。
鉄道の開業はだいぶ遅れを取ったものの、それがかえって都市化が一定程度で留まることになり、現在の自然と調和の取れたほどよい町並みにつながったといっていい。そして、生産地でもないのにウナギがウマい、ということなのだ。
そう、三島に来たのは、ウナギを食べるためである。いくつか目星をつけた名店の前に足を運ぶ。が、平日ならばそれほど混んでいないだろうと油断したのが間違いだった。
どの店も、すでに観光客が列を作っていた。ウナギというのはただでさえ出てくるのが遅いもの。結局、空腹に耐えかねてコンビニでおにぎりを買って食べてしまいました。みなさん、三島でウナギを食べるときには、少しお早めに行くことをおすすめいたします……。
写真=鼠入昌史
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