「私だけ、知らなかったのかー!」
継母のこの答えは、腑に落ちないものでした。嫌なら、断ればいいのに。だから、次にこう聞いてみたのです。
「私とお兄ちゃんがいるのを知ってて、結婚したの?」
長い間が空いて、継母は一言。
「知らなかった」
数日後、継母から聞かれました。
「あんた、いつから知ってたの?」
「何を?」
「私と血がつながっていないこと」
「最初から、知ってたよ」
最初に、父親から「本当のお母さんじゃないけど」と言われていましたから。
瞬間、継母は高笑いを始めました。理性など、とっくに吹き飛んでいることは瞬時にわかりました。
「これで、やっとわかったわ。なんで、こんなに懐かないのか。なんで、私だけ、知らないのよ! 自分だけ、騙されていたんだー!」
継母は私と兄が、継母を本当のお母さんだと思っていると父親から聞かされていたようでした。
「私だけ、知らなかったのかー!」
「自分だけ、バカみたいじゃないか!」
これまでの咆哮とは比べものがないほど、ものすごい声で怒りを撒き散らし、私は継母に殺されるかと思いました。
「それだったら、育て方、全部、間違えたわー。失敗だったわ」
「私が、血がつながっていると思っているのといないので、育て方、変わるの?」
「変わる! 失敗だった。ちっとも、寄ってこない」
キーッとなったら、ものすごくドスの利いた声で怒鳴りまくる継母。そんなことは父親に言ってほしいし、私が騙したわけでも何でもないのにと思いましたが、あまりに激しい怒りように血の気が引いてしまって、何も言えなくて。怖くて、鳥肌がブワーッと立って、殺されるかもと一瞬、確かに思いました。
「それだったら、最初から間違いだわー」
継母はそう言って、すごい勢いで店を飛び出して行きました。そして、ほどなく荷物をまとめ、家を出ました。