もう、思い出すのも嫌、今でも夢に出てきます。この前も赤いペディキュアを見て継母を思い出し、気分が悪くなりました。

 普通は家って安らぐ場所なのだと思いますが、私には牢屋のような、拷問を受ける場所でした。

写真はイメージ ©AFLO

継母から受けた傷

「ああ、もうダメ、疲れてきた」

 

 継母との思い出を辿る沙織さんが、頭を抱えて苦しそうに目を閉じた。それほど、継母という存在は、沙織さんを深く傷つけ、損ねてきた人間だった。

 この継母という女性に、幼い者への愛情を期待するのは無駄なことなのか。せめて継母に、沙織さんと兄へ労わりや優しい思いがあったなら……。母親になってほしいとまでは思わない。

 

 ただ、一つ屋根の下で生きる者として、少女と少年をあたたかな気持ちで見守ってほしかった。

 

 沙織さんはどう思っているかはわからないが、私は「せめて……」と思わずにいられない。

 

 沙織さんは兄と自分が同居するまでは、父親の暴力のターゲットは継母だったと見ている。

 

 夫から殴る蹴るの暴力を受ける鬱屈した感情を、幼い弱き者に吐き出すことで、継母はスッとした快感を得たのだろうか。

 

 自分のストレスを、他者を使って発散するということは、虐待行為に他ならない。

 

 沙織さんと初めて会った12年前は、彼女が継母を看取ったばかりの時だった。沙織さんはがんで余命いくばくもない病床で、継母が(沙織さんの息子の)海くんに「海くん、大きくなったねー。かわいいねー」と話しかけたことで、「許そう」と思った。自分の子どもを愛してくれれば、それだけで許せると。

 

 12年前の取材では、沙織さんにとっての大きなテーマは継母の存在でもあった。継母とは自分にとって何だったのか、自分を愛してくれたのか――、その答えは永遠に失われたにもかかわらず、沙織さんは空に向かって、叫び続けているのだと思えた。

 

「私だけが知らなかった!」と絶叫して店を飛び出して程なく、継母は家を出た。継母がいない快適な生活が始まったと、高校生の沙織さんは思った。しかし、ここからさらにおぞましい地獄に、沙織さんは突き落とされる。

次の記事に続く 「天井だけ、見てたんです」兄と継母が出ていき、家には実父と2人きり…高校生だった女性の心を殺した“おぞましい性暴力”の一部始終