順位戦C級1組からB級2組への昇級を果たした佐藤和俊七段(46)。「ベテラン」と呼ばれる域にさしかかる年齢でなぜ結果を出すことができたのか。インタビュー後編では、振り飛車党としての矜持、AI研究との付き合い方についても話を聞いた。

佐藤和俊七段

振り飛車から雁木へと転換した理由

――佐藤さんの指す将棋の戦型についてお聞きします。プロデビューからしばらくは振り飛車党として知られていましたが、ここ数年では居飛車の雁木もよく指されています。昨年の升田幸三賞選考委員会では、佐藤さんの雁木を升田賞に推す声もありました。

佐藤 雁木は歴史がある戦法ですし、もっと上手い方がいる中で私が雁木で受賞となったら、さすがに辞退したいのですが(笑)。

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 振り飛車という戦法について言うと、時代時代の波が大きいです。振り飛車党にとっていい時代もあればつらい時代もあります。現在はAIの影響もあって冬の時代ですが、いい時代は振り飛車党全体が星を伸ばしていました。奨励会時代は三段に上がるまでは振り飛車穴熊一本槍でしたね。そして、三段時代は藤井システムの黎明期から全盛期ということもあって、穴熊以外の振り飛車全般を指すようになりました。

――藤井システムはその名の通り、藤井猛九段が開発した対居飛車穴熊の革命戦法とも呼ばれる作戦です。当時の藤井システムは、棋士及び奨励会員からどのように見られていたのでしょうか。

佐藤 振り飛車という戦法がある意味でマンネリ化していた時代でしたが、それをがらりと変えたのが大きかったですね。それまでの振り飛車は受け身の作戦とされていましたが、そうではなく自ら攻めることができる振り飛車というのは一線を画すものでした。自分には合っていたので、だいぶお世話になったというか、かなり使った作戦です。藤井システムの他にも振り飛車はいろいろ指しましたが、30を超えて成績が伸びなくなり、それが続いた時に考えて、幅広く戦法を持った方が戦略的にいいのかと思いました。雁木を指すようになったのはその一環ですね。

AIの強みをどう生かすかが難しい

――将棋の戦法、序盤作戦について、現在ではAI研究とは切っても切れない関係にあります。佐藤さんはAIをどのように活用されているのでしょうか。

佐藤 今はほとんどの棋士がAIを使った研究を取り入れていますよね。その中で自分は比較的早くから導入したほうです。具体的にいうと2016年の暮れ頃でしょうか。AI研究が多数派になったのはその1~2年後くらいに感じるので、この微妙な差が大きかったと今では思います。昔から自分で考え、他からアドバイスを受けることはあまりない世界ですからね。

 AIを使った研究の重要性は感じていますし、効率化もできていると思いますが、そのことがどこまで自分の力になっているかというと難しいですね。結局のところみんな使っているわけですから。AIの強みをどう生かすかが難しいというのはあります。自分の使い方としては課題としている局面を研究することになりますが、その結果としてせっかくの先手番で飛車を振って、AIの評価値では不利になる局面に進めるのも、ちょっとアレかなと思う面はあります(笑)。