未知の社会を捉えるには新たな映画作りの方法を考えるべき

――とてもおもしろいお話ですね。具体的にはどういうふうに編集作業を行ったのでしょうか。普通の劇映画のように、まずは脚本があり、それをもとに撮影して、最後に編集をしていく、というスタイルとは違う作業となったのでしょうか?

ジャ・ジャンクー この映画の編集作業はとても特殊なものだったと言えます。そもそも2001年に『デジタルカメラを持った男』を構想し始めたときは、脚本といえるものはまったく存在していませんでした。編集に取り掛かりこれまで撮った素材を見返していったわけですが、その過程で私をもっとも感動させたのはまさにチャオとビンという二人の存在でした。私はまず長い年月の彼らの歩みを30分ほどの物語にまとめてみたのですが、これだけではまだ自分の言いたいことが表現しきれていない、チャオとビンの間に起きた非常に複雑な感情のドラマは描ききれていないと感じたんです。

©2024 X stream Pictures All rights reserved

 そこで私は、二人を取り巻く周囲へとストーリーを拡大していきました。彼らの周辺で起きたさまざまな出来事、そこにいた人々を描くことによって、チャオとビンの物語がより鮮明になるとわかったのです。そうして、この二十数年間に彼ら二人の間に起こったこと、彼らとは直接関係がないものも含め、今までさまざまな場所で撮ってきたものを繋ぎ合わせて現在までを描くという方式を考えだしたわけです。

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――つまり『新世紀ロマンティクス』は編集作業の中から新たな物語が生まれてきた作品なのですね。お話を聞くにつれ、構想から成り立ちまで、これまでのジャ・ジャンクー監督の作品とはまったく異なる映画なのだと思えてきました。

ジャ・ジャンクー 映画の形式は社会の変化と常に連動します。未知の社会を捉えるには新たな映画作りの方法を考えるべきなんです。

――監督の次の作品も、また私たちを驚かせるような新しいスタイルの作品になるでしょうか。

ジャ・ジャンクー ぜひそうしたいと思っています。私はこれまで、何十年という長い期間を描く物語を何度も作ってきましたが、今の自分が関心を持っているのは、今この目の前にある世界をどういうふうに描くか、自分にとって見知らぬ「現在」というものを映画によってどう理解できるか、です。できればなるべく早く、次の作品に取り掛かりたいと思っています。

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