2001年に恋人同士だったチャオとビンは、2006年に決別し、2022年、中国北部の都市・大同で再会する。常に中国社会の「現在」を見つめ、この地で逞しく生きる人々のドラマを描いてきたジャ・ジャンクー監督。6年ぶりに発表した最新作『新世紀ロマンティクス』が映すのは、一組の男女が歩んできた二十数年の道のり。二人の別れと再会、そして彼らが出会った人々の姿を通して、21世紀の幕開けからコロナ禍を経た現在まで、中国が辿った激動の時代が浮かび上がる。
昨年のカンヌ国際映画祭でも大きな話題を呼んだのは、映画の一風変わった構成。自身の過去作、『青の稲妻』(2002)『長江哀歌』(2006)『帰れない二人』(2018)の本編映像を引用し、これまで撮り溜めてきた未使用の撮影素材と、新たに撮り下ろした場面を組み合わせて作られた異例の「新作」なのだ。
しかも主人公は『青の稲妻』に登場したチャオとビンで、演じるのも同じ俳優、チャオ・タオとリー・チュウビン。長い時間を経て、同じ物語が全く別の形で語り直されたともいえるが、なぜ今このような映画を作ろうと考えたのか、独創的な構成はどのように発想されたのか、ジャ・ジャンクー監督にお話をうかがった。
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中国社会は、コロナ禍を機にまた封鎖的な社会に戻ってしまった
――『帰れない二人』のプロモーションで来日された際、監督が、「過去2作(『青の稲妻』『長江哀歌』)で描き切れなかったことを、『帰れない二人』ではラブストーリーとして完結させたかった」とおっしゃっていたのが印象に残っています。過去作からの引用を数多く使った本作の製作も、同じような関心から始まったのでしょうか? そもそもの始まりを教えていただけますか。
ジャ・ジャンクー 2001年頃、私はカメラを手に中国各地を回っては、そのときそこで出会った人々や風景を映していました。当時の中国は新世紀を迎えたばかりで非常に活力に溢れた時代でした。撮影した映像は『デジタルカメラを持った男』というタイトルでいずれ一本にまとめようと考えていたものの、チャオとビンが恋人同士だという設定以外は何も決めていなかった。その場で偶然出会ったものをただ映し、物語や構成は編集の際に決めればいいと思っていたので。結局素材はそのままになり、私はその間に『青の稲妻』『長江哀歌』『帰れない二人』といった映画を作りました。そして新型コロナウィルスによるパンデミックが始まり、いよいよこの映画の編集に取り掛かろうと決めたのです。