西山は強気の戦法。激戦の予感
第4局から、会場は高槻にある新会館に移された。5階にある特別対局室は東に面しており、障子から差し込む12月の低い太陽の光が、部屋の奥まで届いていた。
第3局まで入室の早かった西山が、なかなか姿を見せない。対局開始10分前を過ぎると、立会人や報道陣も時計を気にし始め、5分前が迫ると宮嶋も記録係に時間を確認した。4分を切って西山が姿を見せたときには、室内に安堵の空気が流れた。後で聞いた話では、新会館の荷物検査に時間がかかったとのことである。
すぐに礼を交わして、宮嶋が駒袋を盤上で開くと、数駒が溢れ落ちた。急ぎ並べられて対局が始まった。
先手の西山が角番の一戦に、得意とする「三間飛車」戦法を持ってきたのは想定通りだった。宮嶋は急戦と持久戦を含んだ対応を取りながら、西山の27手目を見て、記録係に棋譜用紙を求めた。相手が考慮に消費した時間によって、研究の範囲を探るのだ。
この一局の最初の岐路だった。宮嶋は自玉を堅く囲わずに、早くも仕掛ける手を選択した。
「西山さんが穏やかに指してくるなら、持久戦のつもりでした。でも強気でこられたからには、こちらも行くしかないと思った」
角交換から、さらに飛車交換になり、盤上は早くも風雲急を告げる。宮嶋は自ら戦いの火蓋を切ったが、こうした激しい展開は西山が望んだものだったのではないか。局面はまだ互角でも、挑戦者側の駒が躍動し始めているように感じた。
一敗の重みを実感する宮嶋
5番勝負で行われる編入試験が、西山の1勝1敗になった時点で、第4局の宮嶋との対戦が12月に決まった。注目されることは、プロにとっては大きなモチベーションアップになる。宮嶋は棋戦に好結果が現れ、サントリーオールスター戦(非公式戦)では、予選を勝ち抜き、関西代表チーム入りを果たした。
「2023年、棋士になれまして、好きな将棋で生活していけるのは幸せなことですけども、やっぱり1年間プロの世界で指してみて、勝負の世界にいるのだなと実感しています。一つの負けですべてがひっくり返るような世界にいるのだなと」



