宮嶋が三段リーグに入ったのは2019年10月、20歳のときだった。4歳上の西山は、すでにリーグ8期目を迎えていた。その第66期最終戦は、奨励会史上、もっとも大きな注目を集めた。西山がトップタイの成績ながら、順位差で次点となったときだ。
「将棋会館に報道陣がたくさん駆け付けていたのを覚えています。他のリーグ戦の日とは空気感も違っていた。最終日に5人が昇段の可能性を残して、西山さんは一つも負けられない中で連勝した。それでも14勝して上がれなかったというのは……。三段リーグは実力もそうですけど、精神力と運も必要になるというのを、このときに実感しました」
初めての三段リーグで見た西山の強さと悲運。その記憶が脳裏に残っている。
奨励会三段の実力が棋士に比肩するものであることは、多くの関係者が知ることだ。リーグの成績上位者には新人王戦などプロ公式戦への出場権が与えられ、毎年活躍が目立つ。
昇段に必要なのは『実力と気力と運』
だが奨励会三段は、どんなに強くてもプロではない。それゆえに置かれた境遇の厳しさがあると宮嶋は話す。
「語弊があるかもしれませんが、棋士は負けても次があるんです。タイトル戦が8個あり、一般棋戦もある。負けても次の棋戦を頑張ればいいと気持ちを切り替えられる。でも奨励会員は、負けたら本当に死ぬしかないような場所で戦っている。やはり三段リーグの方が厳しい環境だというのは間違いないです」
実力がありながらも、棋士になれる者と、なれない者の違いは何なのだろうか?
「それは本当にわからないです。奨励会は実力と気力と運が必要で、そのすべてが重ならないと上がることができない。四段昇段したときに、今期は何が違ったのかと聞かれて、戦型的なことや精神的なことを話すと思うのですけど、三段の人たちはみんなやっていると思うんですよ。誰もが何かしらの変化と進化をしている中で、結果的に何かが実を結ぶ。上がったことが正解としか言えません」



