宮嶋はそう思った。盤を挟むのは4年ぶりだった。三段リーグで対戦したのは2度。それ以外は研究会やVSで指したことはなく、話したこともほとんどない。それでも西山の将棋は覚えていた。
盤上には挑戦者の豪快な狙いの一手が指された。
「チャンスが来たなと感じたと同時に、西山さんらしさが出ていることに対して、指そうとした手が止まってしまった。気迫に押されたはずじゃないのに、動かそうとしても固まってしまうというか。負けられないという気持ちと、自分の体感よりもすごく時間が減っていくことで、焦りを感じていました」
ここで宮嶋に有望な手が残されていた。相手の玉将を狙いながら、自陣の守りにもなる桂馬打ちだ。その手で局面は優劣不明の状況に戻っていた可能性があった。宮嶋は桂馬打ちが見えていたが、手にしたのは別の駒だった。敵陣にいた竜王を守りのために自陣に引きつける。
それを見た西山は龍馬を切り、一気に決めに出た。そこからの数手は一本道で進んでいき、問題はその後だった。宮嶋の読み筋には、大きな見落としがあり、西山の次の手によって必至がかけられる。プロならば一目でわかる局面。しかし、この時の宮嶋は指されても気づくことができなかった。
立会人入室で終局を悟る
中継画面には、立会人の藤原直哉七段が対局室に戻り、盤側の机に座る様子が映された。勝負が佳境で対局者に心理的影響を与えそうな場面では、立会人は入室を控える。つまり、藤原の入室は、誰の目にも将棋がすでに終わっていることを意味していた。
宮嶋はハッとなり、その瞬間、すべてが見えた。
「本当にこれからだと思っていた局面が、必至だった。ありえない……。この手が見えないなんて、思いたくなかった」
対局室に報道陣が傾れ込んでくると、自分の敗因を振り返る余裕などなく、質問を向けられてもうまく答えることができなかった。



