辺境の地だった「浦佐」をまわった若き日の角栄

 浦佐を含む魚沼盆地一帯は、新潟県内でもことのほか雪深い地域だ。冬ごとに数メートルに及ぶ豪雪との戦いが続く、いわば“辺境の地”といってもいい。

 最初の選挙で敗れた田中角栄は捲土重来、長岡などの都市部ではなく辺境の町、魚沼盆地をくまなく回って支持を固めていったという。

 

 いまでこそ魚沼はコシヒカリで高い知名度を得た。だが、戦後間もない頃は新潟の米はどちらかというと不人気だったというくらい。なかなか戦後復興や経済成長の恩恵に与かれない。

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 そうした地域を行脚しての支持固め。国政選挙のたびにニュースになる“川上戦術”というヤツだ。

 そして実際に角さんは、新幹線も高速道路も通した。どれほど角さんの威光が関係したかはわからないが、魚沼のコシヒカリもすっかり有名になった。豪雪地帯が故に雪解け水が豊富で、盆地が故に昼夜の寒暖差が激しい。そんな地理的条件も、ウマい米作りには適していたのだという。

 

田んぼの中のポツンと駅

 浦佐駅前、東口でも西口でも構わない。駅前から10分も歩いて町中を抜け出せば、目の前に広がっているのは一面の田んぼだ。その真ん中を新幹線の高架が貫き、轟音と共に新幹線が颯爽と駆け抜ける。魚野川を渡った東側には、関越道も田園地帯を抜けてゆく。

 

 この光景が、田中角栄が望んだものだったのかどうかはわからない。が、日本有数の米どころ・新潟の“辺境の地”にある新幹線駅・浦佐駅は、お客が多いとか少ないとか、そういうことだけでは推し量れない存在意義を抱いてそこにあるのかもしれない。

 

写真=鼠入昌史

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