勝率第1位賞2年連続獲得(2015・2016年度)、王座獲得(2018年度)、そして2年連続の名人挑戦を果たす(2020・2021年度)。これらは斎藤慎太郎八段の輝かしい戦績である。
しかし、2度目の名人戦七番勝負で渡辺明名人に1勝4敗で敗退して以降、成績は下降線をたどった。2023年度は棋士人生初の負け越しとなり、順位戦A級から陥落した。2024年度もA級復帰は叶わなかった。そうした中で掴んだタイトル獲得のチャンスは、彼にとって絶対に逃せないものであった。
若きタイトルホルダーが歩んだ苦難の道のり
もがき苦しんだのは伊藤匠叡王も同じだ。
2021年度には勝率0.818という驚くべき成績で第1位賞を、2023年度には竜王・棋王・叡王の挑戦権を立て続けに獲得した。そして藤井聡太八冠(当時)から叡王のタイトルをもぎ取った。しかし、2024年度は一転してタイトル戦から遠ざかり挑戦はゼロに。B級2組順位戦では昇級こそ果たしたものの8勝2敗で、ぎりぎりの3位だった。勝率も、棋士になって以来初めて6割を切った。その理由の一つは、ほとんどの棋戦でシードとなったため、対局が少なくなったことによる。
例えば王将戦がそうだ。前年度は、伊藤は1次予選からの参加で、王将リーグ入りには7連勝が必要であった(3連勝したが1次予選決勝で敗れた)。ところがタイトルホルダーとなった今年は2次予選のシード枠となり、わずか2勝でリーグ入りできる。
もっとすごいのは銀河戦である。前期はパラマス式本戦トーナメントの中位からスタートし、4勝して最多勝抜者となり決勝トーナメントに進出した。だが今期は最上位で、1勝すれば決勝トーナメント進出だ。
若い棋士にとって対局は実力を上げる一番の機会である。それがなくなってリズムが狂ったのである。
第10期叡王戦五番勝負、開幕
そうした状況の中、伊藤に斎藤が挑戦する第10期叡王戦五番勝負が始まった。
私は4月3日に行われた愛知県名古屋市「神楽家」での開幕局を現地で観戦した。当日朝に東京を出発したが、対局開始が例年の9時から10時に変更されたため、初手から見ることができた。振り駒により伊藤が先手で、戦型は相掛かりに。23手目ですでに前例がなくなる展開で、この傾向はシリーズ全般に続いた。



