御殿場の運命が変わったワケ

 現在の熱海・三島経由の東海道線が開通し、御殿場経由の旧線は御殿場線と改称、いわばローカル線の立場に転落したのだ。

 東西を結ぶ主要な列車は新線を走り、すっかり御殿場線は裏街道。ターミナルの御殿場駅とその町も岐路に立たされた。

 

 それでも御殿場の町は一定の存在感を保つ。というのも、日露戦争直後あたりから軍が進出し、市域の一部が演習場になったのだ。

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 その演習場は終戦と共に米軍の管理となり、返還後には自衛隊の東富士演習場としていまにも続いている。

 御殿場新天地をはじめとする御殿場駅近くの歓楽ゾーンが形成されたのは、米軍の演習場だった時代のことだという。多くの将兵のための慰安の施設として赤線地帯が形成された。

 

 実際には、戦前戦中の日本陸軍の時代からそれに類する施設はあったのかもしれない。いずれにしても、御殿場駅前の一帯は軍の兵隊さんのための歓楽街という顔を持っていたのである。

今ではすっかりリゾートの町に

 そんな時代も、いまや遠い過去に追いやられた。兵隊さんの歓楽街という側面はとうに消え失せている。少しばかり寂しさを感じる御殿場駅富士山口の商店街と、360分待ちの「さわやか」、そしてアウトレットモール。

 高原地帯ということもあって、戦前から別荘地として御殿場を選ぶ要人も多かったという。いまではゴルフ場も多くなり、すっかりレジャー、リゾートの町という一面が強くなってきている。

 

 東名高速道路が通り、高速バスも東京都心と御殿場を結ぶ。特急「ふじさん」も都心と御殿場を結ぶいくつもの交通手段の一翼を担う。

 

 どちらかだけでもいいところ、この時代にして特急列車がいまも走り続けているあたり、東京から御殿場を目指す人は多いのだ。

 東京から1時間半から2時間ほどの旅。昭和の面影をかすかに残しつつ、さわやかな高原の風が吹く御殿場の町が待っている。

 

撮影=鼠入昌史

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