都心部ではなかなか見かけない「貨物列車」。現在はコンテナ単位での輸送が主流だが、以前は車両単位でしか品目を運べなかった。ちなみに貨物列車は実は個人でも利用できるなど、さまざまなトリビアがある。そんな知られざる貨物列車の世界を、鉄道に詳しい「書き鉄」の杉山淳一さんが解説する。(全2回の2回目/最初から読む)
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貨物列車は石油も運んでいる
コンテナ輸送に対して「車扱輸送」というものがある。貨車1両単位で輸送する方式だ。コンテナ輸送以前の貨物列車は、すべてこの貨車単位で運用されていた。
鉄道路線の要所に広い操車場があって、貨車は行先別に組み替えられる。その後、車両ごと目的地の駅へと向かっていく。この方式が効率が悪いからコンテナ輸送が開発されたわけだ。しかし、コンテナに切り替えにくい貨物は現在も車扱で残っている。輸送品目に特化した専用の貨車を使っている。
その筆頭は「石油」だ。年間輸送量は約594万トン。海外から到着した石油は四日市、根岸など8つの製油所からタンク形貨車に積み込まれ、内陸部の油槽所に輸送される。
トラックのタンク車は危険物車両のため、海底トンネルや5キロ以上のトンネルなど通行禁止箇所が多い。その点、何重にも安全装置を使っている鉄道貨物のほうが安心だ。海外ではパイプラインを使うけれども、地震大国の日本では貨物列車が活躍している。大量に消費される石油はタンク形貨車のほうがコストを削減できる。
車扱輸送の次点は「セメント・石灰石」だ。かつては全国で産出、鉄道で輸送していた石灰石輸送も、JR貨物では現在岐阜県の美濃赤坂駅と愛知県の笠寺駅を結ぶ区間だけになった。それでも年間で約140万トンを輸送する。
車扱輸送にはこのほか、約81万トンの「車両」という項目もある。これは他社の鉄道車両を運ぶ列車だ。車両メーカーの工場から鉄道会社へ新車を運ぶ、あるいは、中古車両を他の鉄道会社に譲渡するなどで実施されている。
ちなみに全国規模で貨物列車を走らせている鉄道事業者はJR貨物だけだが、JR貨物以外にも地域ごとで活躍する鉄道事業者がある。私鉄では埼玉県の秩父鉄道や岐阜県の西濃鉄道が石灰石輸送、三重県の三岐鉄道がセメント輸送を実施している。また、全国9カ所の臨海鉄道が工業地域や港とJRの駅を結んでいる。工場から最寄りの鉄道駅までを結ぶ貨物専用線もある。




