OEM(original equipment manufacturing)とは、他社ブランドの商品を裏側で製造する「影の工場」のような仕組みだ。たとえば大手洋菓子店に並ぶ焼き菓子や道の駅のテイクアウトスイーツが、実はこの小さなパティスリーの厨房でつくられている。

OEM事業の売り上げは、ひと月700万円から1000万円ほどで年商の約8割を占める。商品1個当たりの卸価格は200円前後。店頭には行列がなくても、厨房では毎日2000個前後の商品がつくられ、全国へと出荷されているのだ。

百貨店の食品売り場に並ぶスイーツも、実はこの厨房で生み出されたものが多い。「フロアを見渡すと、うちが手がけた商品でいっぱいになる時期もあります」という。

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きっかけとなった「焼きモンブランの土台」

ショーケースの奥にある厨房の広さは、約20坪。毎日5~6人のスタッフが厨房に入り、1日で店舗分約100個、OEM分約2000個のケーキやクッキー、マドレーヌといったスイーツをつくり出している。

とはいえ限られたスペースと人員で、他社ブランドの商品を量産するのは骨が折れるだろうと考えていると、小澤さんは意外な言葉を口にした。

「OEMの商品に関しては、うちで丸ごと製造しているわけではないんです。たとえばシュークリームの皮だけをうちで大量につくり、納品先でクリームを詰めていただくケースもあります」

そのうちのひとつ、国産栗を使用した「焼きモンブラン」は、スイーツスタンダードで土台となるタルト生地だけを焼いて取引先に提供しているそうだ。

この柔軟な製造スタイルは、「小ロット対応」「部分工程のみの受託」「添加物不使用」など、大手が敬遠しがちなニーズに応えられる点で評価が高い。とくに素材にこだわるブランドや、大量生産ができない小規模メーカー、細かい作業の対応が難しい大手メーカーからの引き合いが多いという。

厨房では生産性向上のため、いかにまとめて作業するかを重視。効率的な1日の作業プランを組み立てることで、限られた人数でも大量生産が可能な体制を構築している。