生産能力の増強にともない、人材採用にも力を入れ始めた。国内外での受賞歴や、鈴木氏自身が学術論文を発表していたこともあり、京都大学大学院、一橋大学、筑波大学など、名だたる大学から優秀な人材が集まった。「社内にはマスター(修士)、ドクター(博士)を持つ人材がゴロゴロいる」と鈴木氏が説明するように、今では地方の中小企業としては異例の人材層を抱えるほどだ。

 直近の2025年11月期、二軒茶屋餅角屋本店の年商は約14億円と、創業当時の8000万円から17倍超に成長。売上の95%をビール事業が占め、利益率も前年から16%伸びたという。

「1本1万円」のビールも販売

 鈴木氏によると、日本のクラフトビール市場はビール市場全体の1~2%に過ぎず、アメリカ(20%超)と比べて小さい。鈴木氏は市場が拡大しない理由を2つ挙げる。

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 1つは、日本特有の飲酒文化。「とりあえず生ビール」で乾杯する習慣があり、個々人が好きなビールを選ぶ文化が育ちにくい。個性豊かなクラフトビールを選ぶ機会が少ない。

 もう1つは家庭醸造の禁止だ。「日本は家庭醸造が100%禁止。反対にアメリカでは50年ほど前から、100万人以上が造っていてレシピ本も販売しているほど」と鈴木氏は説明する。日常的にクラフトビールに触れる機会がないため、リテラシーが育たない。

 しかし、裏を返せば、市場にはまだ大きな成長余地があるともいえる。クラフトビール市場には近年、アサヒビールやキリンビールなどの大手メーカーが参入し、競争が激化してきた。ISEKADOを含め、従来のプレイヤーにとっては脅威になりそうなものだが、鈴木氏は「大手が手がける商品は、エントリーモデルとして市場を広げる効果がある」と歓迎する。手に取りやすい商品から、クラフトビールに興味を持つ層が増えるという考え方だ。

 そんな中でISEKADOが取る戦略は、幅広い商品を展開すること。常時、十数種類以上のビールを展開し、量販店向けの300円台の商品から、販売数量を絞った高単価な限定ビールも販売している。

 わずか100リットルしか製造しない「KADOLABO」シリーズ(1本数千円~)のほか、過去にはビールを凍らせて旨味を凝縮し、ウイスキー樽で6カ月熟成させた1本1万円の「DIGNITY(ディグニティ)」も販売した。

「飲むメルセデス」という触れ込みにて、1本1万円で発売した「DIGNITY」

 また、海外進出も積極的に行い、13カ国へ展開。2025年7月には海外で生産する新ブランド「ISEKADO International」を立ち上げた。ベトナムの協力工場で生産した商品は日本でも販売しており、軌道に乗れば、タイやネパールでの展開も検討している。こうした取り組みを交えつつ、3年後をメドに売上高を25億円まで伸ばす計画だ。

 伊勢の小さな餅屋から生まれたビールは、創業当初から掲げる「世界に通用するビール」として、着実に存在感を強めている。伊勢から世界への挑戦は今後も加速しそうだ。

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