「イタコ」は霊能者なのか?

 また一方で、「イタコ」は霊能者であり、いわゆる霊感といった特殊な能力を持っているという見方は確かにある。それは地元でも外部でも変わらない。そういうイタコもいることは否定されない。事実、江刺家さんによれば、かつて存命だったうちでは、八戸近郊の南部町苫米地にいた川守田トヨ女というイタコは非常に「勘が鋭い」人だったという。

 しかし、実際のイタコの能力、客に求められていた力とは、視覚が失われたことを逆手にとり、鋭敏になった聴覚・嗅覚を駆使し、客の悩みや相談、願いを察知し、最適な助言や言葉を通じてその悲しみや苦しみを癒すこと、今を生きる者のための力になることである。そして、師匠イタコを通じて受け継がれてきた地域内での地位と民俗的価値、長くイタコとして過ごし培ってきた経験や宗教者としての佇まいにあるのではないだろうか。

 私は、ともかくそんな絶滅寸前のイタコの中でも、最後の本物の盲目のイタコと実際にあって見るまで、結論を待とうと思った。

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正真正銘、本物の「日本最後のイタコ」に会いに行く

 やがて車は八戸市郊外のとある町へたどり着く。長い長い道中だった。

「次の信号を曲がってください」

 古い住宅地だった。その先を言われるがまま進むと、小さな平屋建ての一軒家があった。青森県内ではどこにでも見かけるような狭い路地、どこにでも見かけるような林がある小さな丘、どこにでも見かけるような田舎の、古くも新しくもない家……そんな印象の場所だった。ただ一つ違うのは、玄関先に「イタコ 中村 →」の看板が貼られていることだ。

タケ女の自宅前には、このような看板がある。日本広しといえど、このような案内があるのは青森県内だけであろう。

 江刺家さんが玄関を開け、「タケさーん!いだがねえ(おりますかね)ー?」と声を張り上げた。

「はぁい」という、柔らかくも芯のある答えが廊下の奥から聞こえた。壁に手をつきながら現れた、黒い洋服のお婆さん。それが中村タケ女さん。正真正銘、本物の「日本最後のイタコ」であった。

※中村タケさんは202511月頃から体調を崩され、ホトケオロシが難しい状態になっているとのことです

次の記事に続く 玄関に現れたのは“田舎の小さなお婆ちゃん”だったが…日本最後・最高齢のイタコ(93)が白装束に着替えて「ホトケオロシ」を始める“一部始終”がすごかった