超自然的な力によって人間に禍福(かふく)をもたらすと信じられ、神聖視されている物体「呪物」。なかには、所有していると身の回りで不思議な現象が起きると言い伝えられているものもある。そんな呪物を150体以上蒐集し、「呪物コレクター」と呼ばれているのが怪談師の田中俊行さんだ。
今年7月には、呪物蒐集の日常を描いたコミックエッセイ『ぼくと呪物の奇妙な生活 呪物コレクター誕生秘話編』(竹書房)を上梓した田中さんに、呪物を集め始めたきっかけや、田中さんの身に起きた出来事などについて、話を聞いた。(全2回の1回目/2回目に続く)
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絵馬やお守り、“呪いの藁人形”…意外と身近な「呪物」とは
――そもそも“呪物”とはどんなものを指すのでしょうか。
田中俊行さん(以下、田中) 簡単に言うと、超自然的なパワーが宿っていると信じられているものです。みなさんがよくご存知のところで言うと、絵馬やお守り、“呪いの藁人形”なんかもその一種です。呪物には大きく分けて、呪術師などが術をかけて人工的に作るものと、自然発生したものの2種類があります。
――呪術師は現代にもいるのですか。
田中 海外では、呪術師が一般的に活動している地域もまだまだあります。特にタイは“呪術大国”なんて言われるくらい、呪術師や呪物が社会に溶け込んでいる。僕もいくつかタイの呪物を持っていますよ。
日本だと呪術師という名称ではないですけど、祈祷やお祓いをする人がいますよね。たとえば、東北の“イタコ”さんとか、沖縄の“ユタ”さんは、広い意味で呪術師と言えます。僕の好きな呪物のひとつ、東北地方の家庭で祀られてきた“おしら様”は、イタコさんの術が込められているんですよ。
――そう聞くと、人気漫画『呪術廻戦』の世界が身近に感じられますね。
田中 ちなみに、『呪術廻戦』は僕も読んでいます。漫画の舞台でもある呪術高等専門学校という架空の学校に、「伏黒恵」って男子生徒がいるんですよ。伏黒さんは呪術で「鵺(ぬえ)」という生き物を操るんですけど、僕も「鵺の手」と呼ばれる呪物を持っています。
鵺は、『平家物語』にも登場する伝説上の生き物なんです。僕の持っているものは、その鵺の手をミイラ化した呪物と言われていて。だから、彼より僕の方がおっさんやけど、初めて漫画を読んだときに「僕、リアル伏黒さんやん!」って思いました(笑)。
――「鵺の手」も含めて、現在はどのくらい呪物をコレクションしているのですか?
田中 数は全部で150体以上です。ここまで集めるのに、700万円はかかりました。海外にも行くので、渡航費も含めてですけどね。