一体、彼女はどんな家に生まれ、どんな理由で「若者の家」にやってきたのか? 彼女の半生を尋ねたかった。それでも、事前に「国境なき子どもたち」のスタッフから、「家族のことや入所までの過去を掘り下げる質問はやめてください」と言われ、誓約書の提出も求められていた。思い出したくない過去、あるいはトラウマとなっている心の傷を誰もが抱えているからである。

 インタビューした子たちがそうとは限らないが、過去にここで暮らした子どもたちの多くは元ストリートチルドレンであり、人身売買によって幼い頃から働くことを余儀なくされていたトラフィックトチルドレンなのである。カンボジアからタイへトラフィッキングされた子ども、青少年が社会問題化して久しいという。リンダさんは続ける。

「ここでいろいろなことを学び、たくさんの友だちができました。勉強をしていたから、私は大学に行きたいと思うようになりました。そして、私は法律の勉強をしています。今はすごく楽しいです。今、学んでいることを生かして女性として警察官になりたいんです」

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 世の中で困っている人を助けたい。そんな思いが、彼女の中に芽生えているのだという。残りの2人にも将来の夢、目標を尋ねるとその目が輝いた。「僕は大学卒業後に大学院に行って、今の勉強をさらに深めたいです。法律をもっと学んで、弁護士になりたい。困っている人を助けてあげたい。勉強はとても難しいけど、弁護士になるために、今、頑張っています」(サムナンくん)

「僕も弁護士を目指しています。法律を知っているのと、知らないのとでは人生が大きく変わってきます。勉強する機会がないから、法律を知らない人、よくわかっていない人が、カンボジアにはたくさんいます。そういう人たちのための力になることができたら。そう考えています」(ブティくん)

 卒業生3人に共通していたのは、「誰かの役に立ちたい」という思いだった。自分たちがドナーに助けられて今があるように、今度は、自分たちが誰かのためになりたい。そんな思いを抱いていることがよく理解できた。

 吉田のホームランが彼ら、彼女たちの支えとなり、今度は卒業生たちが誰かの支えとなるときが訪れる。幸福の循環、善意の循環は確実に存在していた。

吉田のホームランの本当の価値

 この話を聞いていた在所生の一人が言う。

「僕は、ここを卒業したら大学の医学部に行って医者になりたいです。両親の具合がよくなくて、いつも苦しそうにしているから、自分で診てあげられるようになりたい。そして、病気で苦しんでいる人を助けてあげたい。そのためにはもっと高い知識や教養が必要です。だから、もっともっと頑張らないといけないと思っています」

 このときようやく、吉田のホームランの本当の意味、価値を心から理解できた気がした。