いずれも料金はかからず、無料である。教科書も無料配布されるという。その運営費の一部こそ、吉田のホームランが生み出した支援金から捻出されているのである。

「何もなくてシンプルだけど、清潔な部屋ですね」

 吉田の隣を歩いていると、彼の感想が聞こえてくる。

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 先にも述べたようにコンピューターの授業は大人気で、「若者の家」の住人だけではなく、近所に住む大学生まで授業に参加しているという。もちろん、「若者の家」では、こうした人々を拒絶することはない。基本的には誰でも出席可能で、ときには教室からあふれるほどの賑いを見せることもあるという。

「世の中には、勉強したくてもできない人がいる」という現実

 どうして、彼らはそれだけの熱意を持っているのか?

 カンボジアの公立教育機関は無料で授業を受けることができる。しかし、入学したものの、卒業まで至らず、途中でやめてしまう子どもがたくさんいるからだ。

 ノートや鉛筆などの文房具、日々の昼食代、制服など、授業以外にかかる経費が家計を圧迫する。さらに貧困家庭にとって、高校生、中学生はもちろん、小学生ですら、家計を支える重要な働き手でもある。いくら学費が無料でも、「教育を受けること」は、貧困家庭にとって、そう簡単なことではない。「若者の家」には、「もう一度、勉強がしたい」「学び直しをしたい」という思いで授業を受ける人たちが集まってくる。『世界がもし100人の村だったら』に登場したフィリピンの12歳の少女マニカが番組中でつぶやいた言葉がある。

「勉強したい……」

 その切実な思いは、カンボジアでも同様だった。子どもたちは教育の機会を心から求めていた。ゆり香夫人が幼い頃に父から言われた、「世の中には、勉強したくてもできない人がいる」という現実が、まさに目の前にあった。

 また、かつて「若者の家」には工房が併設されており、かつてはKnKにより、職業訓練や女性のための収入創出活動が運営されていた。2023年以降は、この工房は独立した地元の女性グループに貸し出されており、彼女たちが子育てをしながら生産活動を続け、自分たちで収入を得る仕組みが整っている。織物グループでは絹織物の作り方を学ぶ。織機は10台以上用意されており、織機にセットされた縦糸に一本ずつ横糸を通していく工程を学んでいく。絹織物はカンボジアでも高級品で、ここで作られた絹製品は結婚式や記念日、正月や祭りなど、改まった席で使用するのに重宝されているという。