しかし、吉田は子どもたちからの誘いに応じて「よし!」とひと声言うと、そのままコートに入った。子どもたちから歓声が上がった。そして、前衛では、相手からのスパイクをブロックしたり、後衛では仲間からのトスを受けてバックアタックを決めたり、思い切りプレーをしたのである。時間にして10分程度、子どもたちと汗を流し、白い歯を見せて笑い合ったのである。

 やがて、試合は終わった。チームメイトに囲まれて次々と握手を求められ、もちろん相手チームも遅れて握手の輪に加わった。まさに、スポーツの持つ力だった。一瞬にして、支援する者、それを受ける者の垣根が取っ払われる光景を目の当たりにした思いだ。吉田も、そして子どもたちも、ともに心からの笑顔を見せながら、ハグしたり、ハイタッチを交わしたりしている。このときこそ、吉田とカンボジアの子どもたちの気持ちが心から一つになった瞬間だった。多忙なスケジュールの合間を縫って、現地に駆けつけた意味のある瞬間だった。

訪問の余韻

 歓迎セレモニー、施設の視察、そしてバレーボール――。

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 それは、あっという間の出来事だった。そろそろ、別れの時間がやってきた。現地スタッフが「最後に吉田選手にあいさつを」と促す。子どもたちが吉田の下に集まってくる。

 男の子が代表してあいさつを述べると、他の子たちも手を振りながら頭を下げる。それを受けて、吉田も「ありがとう」と礼を述べる。最後に参加者全員で記念撮影をする。満面の笑みでレンズを見つめている者、緊張している者、はにかんだ表情を浮かべる者、それぞれが、それぞれの思いとともに、一枚の写真に納まった。

 車に乗り込み、私たちは次の場所に向かう。「若者の家」から、かつてはここの住人であり、今では大学生となったソックレンくんの自宅を訪問するためだ。そして車が静かに動き出す。子どもたちはずっと手を振り続けている。サッカーユニフォームを着た小さな男の子が、最後まで車の後をついてくる。到着したときも、別れのときも、この少年が私たちを最大限に歓迎してくれた

 濃密な時間だった。ここでの出来事を嚙みしめていると、吉田が言った。

「かわいい子どもたちでしたね……」

 まさに同感だった。わずかな触れ合いでしかなかったけれど、最大限の歓迎を受け、私は感動していた。吉田もまた、静かにその余韻を嚙みしめているのだろう。本当にいい時間だった。

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