あるいは、サムナンくんが在籍していた縫製グループでは、一人一台のミシンが用意され、それぞれがバッグやポーチ作りに励んでいた。地元の店からのオーダーを受け、リクエストに合わせて商品を作っていたのだという。さらに、一時期は養蚕業も手がけていた。敷地内に専用の小屋を建設し、研修を受けたメンバーが蚕の世話をして自家製の絹糸も生み出していた。

 ここで作られた商品は、現地だけではなく日本でも販売できるようにKnKはプランニングし、そのための販売ルートの開拓にもあたっていたという。教育を受けること、技術を身につけること、つまりは将来に向けて生きていく術を手に入れること。「若者の家」の果たしてきた役割はとても大きい。

子どもたちとの垣根が取っ払われた瞬間

 特別に女子寮の内覧を許された。住人である女の子が恥ずかしそうに部屋を見せてくれた。そこは勉強用の机、二段ベッド、クローゼットが設しつらえられてある質素な部屋だった。何もない部屋の中で、ひときわ目についたのが壁に貼られているポスターだ。それは韓国の、いや世界的なアイドルグループBTSのメンバーが並んでいるものだった。カンボジア・バッタンバンの「若者の家」に住む少女まで虜にする人気グループの底力を見た思いだ。

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 その後も、若者たちとの交流は続いた。子どもたちは、「普段の自分たちの生活を知ってほしい」ということで、休み時間にいつも行われているというバレーボールを始めた。最初は、楽しそうにプレーしている姿を見学しているだけだった。すると、子どもたちの一人が「一緒にやらないか?」とボディランゲージで、吉田を誘う。

 私はその光景を見ながら、(やんわりと断るのだろう)と思っていた。理由は2点ある。

 先ほど『スタンド・バイ・ミー』の合唱に誘われたときに固辞していたように、シャイな吉田が、子どもたちと和気あいあいとバレーボールをするイメージが湧かなかったこと。

 そしてもう1点は、怪我をするリスクを恐れたことである。年間数十億円を稼ぐ現役メジャーリーガーの吉田である。遊びとはいえ、バレーボールで突き指をする可能性だってある。ウォーミングアップもしていない状況で、不測の事態が起こらないとは限らない。

 だから、一緒にプレーすることはないだろうと思っていた。