「なんか泣けないんだよね」と言っていた岡部たかしの目が真っ赤に
――松野家のシーンには、笑って泣けるやりとりがたくさんありました。「これは想定を超えてきた」みたいなシーンはありますか?
ふじき 終盤でいうと、錦織が亡くなってしまう第23週(「ゴブサタ、ニシコオリサン。」/村橋直樹チーフD演出)はどのシーンも好きなんですけど、特にトキが雨清水家に籍を移すと決まって、トキ・司之介・フミが対話するシーン。「松野だろうが雨清水だろうが、父上が父上で、母上が母上なのは、変わらん」とトキが言った後、司之介が「そげで頼む」と返すところは、たまらないものがありました。第1回から司之介・フミ・勘右衛門のトキへの愛をずっと書いてきましたが、このシーンで結ばれた気がして。
岡部たかしとは長いあいだ一緒に演劇をやってきて、昔から知っているのですが、芝居で泣いたのを見たことがなかったんです。本人も「なんか泣けないんだよね」とずっと言っていました。それなのに、「そげで頼む」のシーンでは目が真っ赤で。髙石あかりさんへのコメントVTRで『あさイチ』(NHK総合)に出演した時も岡部は、「俺、そういう(泣くような)タイプの俳優やと思えへんかった」と。僕も本当にそう思いました。
――ふじきさんでさえ見たことのない、「誰も知らない岡部たかし」が『ばけばけ』では見られたんですね。
ふじき 1年の撮影期間を通じて、本当に司之介になっていったし、家族になっていったんでしょうね。トキの父親になっていたし、フミの夫にもなっていた。あらためていい家族だなと思いました。
――トキとヘブンのシーンはいかがでしたか?
ふじき 核心である「夫婦の物語」を体現した髙石あかりさんとトミー・バストウさん、おふたりのシーンはどれもよくて。終盤では特に第24週(「カイダン、カク、シマス。」/泉並敬眞D演出)の、ヘブンが帝大をクビになったことをトキに打ち明けたシーン。「よかっただないですか。あなたは『書くの人』ですけん」と言って、トキがどっしりと受け止める。そこからふたりで『怪談』を書き上げるまでの一連の流れ、完成して「パパさん!」「ママさん!」と喜び合うところなど、めちゃくちゃ素晴らしかったです。
――脚本・演者・演出・スタッフのチームワークが素晴らしい作品だったと思います。ふじきさんにとって、制作統括の橋爪國臣さんとチーフ演出の村橋直樹さんはどんな存在ですか?
ふじき 『ばけばけ』の中の言葉を借りるならば、ヘブンにとって錦織がそうだったように、本当に僕にとってリテラリーアシスタントのような存在ですね。脚本を書いている僕ひとりの力は小さいと思っています。橋爪さんと村橋さんが引っ張ってくれたから最後まで楽しく書けたし、もちろん他のスタッフの皆さん、キャストの皆さんも含めて、感謝しかありません。
僕は、台詞を書くのはできるんですけど、わりとその場その場、感覚で書いていくタイプで。先々の構成を見通して、理詰めで書くということがあまり得意じゃないんです。村橋さんは「本は理屈で作るもの」というタイプで、「人物がいたらとにかく話し始めちゃう」みたいな感じで書き進める僕とは対照的。やっぱり「理」の部分がしっかりしていないと、こうはならなかったと思うんです。




