――「感覚」と「理」が合体して『ばけばけ』ができたと。
ふじき 制作が始まってすぐの頃、僕はこんなに長い連続ドラマはやったことないし、明治時代のお話を書くのも初めてなので、「助けてほしい」と言ったんです。「僕は人物たちが豊かになるための作業を責任を持ってやるので、構成や理屈の面で迷った時は助けてください」と。そうしたら橋爪さんが「みんなで考えていきましょう」と言ってくれて。
橋爪さんと村橋さんがいないチームで『ばけばけ』を書いていたらどうなっていたかと想像すると、今、恐ろしいです。
「朝ドラを見る時、第1週で好きかどうかが決まってしまうところがあります」
――約2年間の制作期間をふり返ってみて、いかがですか?
ふじき 脚本を書きはじめる前、まだ制作発表もしていないし『ばけばけ』というタイトルも決まっていない頃、スタッフの方々と僕とで松江にシナリオハンティングに行ったんです。松江のあちらこちらを巡った後、僕は居酒屋で村橋さんに向かって「とにかく第1週でホームランを打ちたいです」と、なぜか言ったんです。僕はホームランを打つタイプの脚本家じゃないのに。
僕自身、視聴者として朝ドラを見る時、第1週で好きかどうかが決まってしまうところがあります。だから、とにかく第1週が勝負だと。村橋さんは僕の言葉を覚えていて、「ふじき作品におけるホームランと、朝ドラの冒頭におけるホームランは両立し得ないんじゃないか」と悩みながら第1週・2週を作ったと言っていました。そして出来上がった第1週の完パケ映像を見てみたら、カキーンと決まるタイプのホームランではないけれど、ランニングホームランっぽい感じにはなっていたんじゃないかなと思ったんです。
――バットに球が当たった瞬間はわからないタイプのホームラン。
ふじき 「あれ? あれ?」って感じで「なんとなく1点入った」みたいな。でも、ずっと見ていたい朝ドラだなと思いました。視聴者の皆さんにも『ばけばけ』が「なんとなく1点入った」「でもずっと見ていたいな」という感じで届いていたら、嬉しいです。
ふじきみつ彦
早稲田大学卒業後、広告代理店勤務を経てコント、小劇場の世界へ。
シティボーイズライブ等でコントを書く一方、演劇では日本の不条理劇の第一人者・別役実氏に師事。その後、「みいつけた!」などEテレでテレビ脚本を書き始める。
主な執筆作に、NHK「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」(第30回橋田賞受賞)、テレビ東京「デザイナー渋井直人の休日」「きょうの猫村さん」、WOWOW「撮休シリーズ」、映画「子供はわかってあげない」(沖田修一監督と共同脚本)、岡部たかし・岩谷健司の演劇ユニット「切実」、舞台「muro式」。日常の些細な出来事を独特の笑いをまじえて描く会話劇が得意、と周りから言われる。



