樋口 こういう構成になった必然が凄く分かるんですよ。この本は電気グルーヴ以外のことが沢山書かれていますけど、僕も対談やインタビューの場で話が枝葉に脱線しがちなので(笑)。
椎名 そうなりますよねぇ。僕も「自分のことばかり書きすぎたから、そろそろ瀧さんと石野さんの話も入れなきゃ」みたいに考えながら書いていました。
樋口 その塩梅に、嘘偽りがないなと思いました。そもそも人の記憶も、そうやって強弱があるのが普通なものだし、だからこそ読んでいて伝わってくるものがあったんです。
「書き手は加害者だ」――友との記憶を、許可なく書き残すことの葛藤と救い
樋口 この本を読んでいて改めて感じたのは、文章を書くことはザ・キュアー=治療なんだなということです。僕は38歳で小説家としてデビューして、これまで20冊くらい本を書いてきましたけど、特に「自分にまつわる過去のこと」って、書いていてすごく辛いんです。そして切なくもある。でも、そうやってアウトプットすることで治療をしてこなかったら、今こうやって生きてないと思うんです。
椎名 戦争で酷いことをして罪悪感に苛まれていた人が、それを文章に書いたら治った、って話もありますよね。きっと喋るだけじゃダメで、書くことに何か意味があるんだろうな、と思います。まだ僕は分からないですけど。
樋口 書くことって特効薬じゃなくて、しばらく経ったあとで「これを書いておいて良かったな」ってじんわり効いてくる時期があるんですよね。椎名さんも、「書くのが辛いけれど、だからこそ書かなければならなかったこと」があったと思います。だからこの本は椎名さんの『ノルウェイの森』なんだと思う。もう30年経ったあの頃の、青春と狂騒と、熱狂と死と、祈りが込められてるというか。
椎名 亡くなった友達のことは、「このままだと名もなく死んでいくことになるから、この話は本に書き残しておきたい」と考えながら書きました。「この話は書きすぎかな」「これは読者は興味ないだろうな」と悩むことも多かったですが、途中から「もう気にしない!」と割り切って書くようにしました。
樋口 僕も「こんなことを書いていいんだろうか」と悩みながら『凡夫』を書いたので、その気持ち、本当に分かります! でもそれは、大島渚の「キャメラは加害者だ」という名言と同じで、書き手も加害者だからなんですよね。僕の本にも亡くなった人が出てきますけど、「書きますから」と許可を取っているわけでもないし。
椎名 そういう気は遣うよねえ。この『オールナイトロング』の本編の主役のボス2人(電気グルーヴ)は中学時代からおっかない先輩だから(笑)。
