「行列は社会のバロメーターだった」――ドラクエ、日本シリーズ、そして失われた“9月の肌寒さ”

樋口 そういう時代の記録的なエピソードも含めて、僕にとって『オールナイトロング』は「本当に書いてくださってありがとうございます」という本なんです。まさにオーケンさん(大槻ケンヂ氏)が帯で書いている、

「貴重な記録! 『電気グルーヴのオールナイトニッポン』原理主義で“あの頃”のサブカルが蘇る、激レアの資料! この本の帯文は僕じゃなくて電気グルーヴが書くべきだよ! 絶対に! ……もう書いちゃったけど」

 という文章の通りですね。

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椎名 この本では自分のことを書くのも不安だったから、そのオーケンさんの推薦文は本当にありがたいですね。そして当時の若者の暮らしを描写するにあたっては、レオパレス21の歴史まで研究して、「読む人にちょっとでも役に立つ、時代の知識を残そう」と思って書きました。

©橋本篤/文藝春秋

樋口 そういうの、本当に大事です!

椎名 樋口さんは東京育ちですけど、この本に書かれていたコインシャワーとか知ってますか?

樋口 使ったことはないですけれど、存在は覚えてますよ! 僕は池袋で育ったので、この本に書かれていたドラクエ発売時の長蛇の行列も覚えてますし。

椎名 あれ、すごかったですよねぇ。

樋口 本でも言及されていますけど、社会現象の象徴としての「長蛇の行列」というのが昔は沢山あったんですよね。

椎名 今やおとぎ話だよね。

樋口 中学生の頃、駅から5~6分のウチの近くまで、日本シリーズの西武対巨人のチケットを求める行列ができていたこともありました。今はネットでチケットを申し込むから並ぶ必要もないんですけど。行列が一種のバロメーターになって、マスコミがそこに飛びついて、社会現象が巻き起こるという流れが当時はあったんです。

 あと『ドラゴンクエストV』が9月に発売されて行列ができたときの描写で「当時の9月の終わりはまだ寒かった」というのも大事な証言です。

椎名 ある時期から9月の終盤なんて、ぜんぜん海に入れそうな気温になりましたからね。

樋口 そういう話も含めて今の時代の読者にとっては貴重な証言集になっていると思います。