アリサは「母親がいない」としてネット上で悪し様に言われることもあったが、アーサーの妻はアリサにとって血縁はなくとも母親であり、父との離婚後も「私たちと縁を切ることはなかった」と言う。ただし祖母と同様、母親もメディアに登場することは一切ない。ミラノ・コルティナ・オリンピックでの金メダルの瞬間も、父アーサーと4人の弟妹は会場のスタンドで応援していたが、母親の姿はなかった。
アーサーは、アリサが2022年の北京オリンピックに出場した後のインタビューで、中国政府からの干渉があったことを語っている。FBIから、自分と娘が「中国政府の指示によるスパイ監視の標的」になっていると連絡を受けて、「米国五輪委員会の職員を名乗る男から電話があり、自分と娘たちのパスポート番号を尋ねられた」と語っている。アーサーは「アリサがウイグル族に対する人権侵害に関してインスタグラムにメッセージをポストしており、それを中国が把握している」と告げられたとも語っている。
事態を憂慮したアーサーは、北京での競技中は厳重な警護を付けることを米国国務省と米国五輪委員会に確約させた上で、アリサを北京に送った。ただしアリサを萎縮させないために、アリサ本人には何も告げなかった。いずれにせよ、アリサにとって北京オリンピックは祖国への初めての訪問であり、ファンやメディアからは暖かく迎えられている。
父への複雑な感情、コロナが転機に
自分の人生のあらゆる面に深く関わってきた父アーサーに対して、アリサは複雑な感情を抱いているようだ。
5歳で初めてスケート靴を履いた瞬間から、そのスピード感に魅せられたアリサは熱心に練習した。やがて大会に出るようになると通学が難しくなり、6年生(日本の中学1年生に相当)からはホームスクールとなった。オンライン授業を主とするホームスクールはADHDを持つアリサには合わず、苦痛だった。
当時の大会での演技の動画を見ると、アリサは不思議な感覚にとらわれると言う。そこで滑っているのが、まるで自分であって自分でないような。変化のない自宅・練習場・大会の繰り返しで、どの大会が、いつ、どこで、といったはっきりした記憶もないと言う。
2020年になると世界中がコロナ禍に見舞われた。アリサにとって、奇しくもこれが後のターニング・ポイントにつながった。アリサはコロナ禍によって初めての「休暇」を手に入れることとなったのだった。当時のコーチはアリサに1日たりとも休みを与えず、アリサも練習を休むことで「ジャンプができなくなる」のを恐れていたと言う。




