引退後、充実した生活を送っていたが…

 いったん引退を決めると、アリサは人生をとことん楽しんだ。免許を取り、友だちと出かけ、弟妹と遊び、旅行にも出掛けた。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に進み、心理学を専攻した。しかし引退から1年9カ月目に、あることが起こった。

 生まれて初めてのスキーに挑戦したアリサは、滑る際のスピード感からのアドレナリン・ラッシュを感じた。その感覚を再度、味わいたく、旅行後にスケートリンクに行った。滑った。楽しかった。またリンクに戻った。もっと滑ろうと思った。やがてアリサはコーチに電話し、復帰を相談した。

復帰に際してアリサが望んだこと

 復帰に際してのアリサの要求は、プログラム、音楽、衣装、ヘアメイクのみならず、練習の量から食事内容に至るまで自己決定するというものだった。いったんは電話を切ったコーチは、考えた末にアリサの復帰を引き受けた。コーチは、引退前のアリサは「全力を尽くしていたが、そこに目的意識はなかった」と言い、現在の練習は「私がアリサにこうしなさいと指示することは決してなく」、アリサとの「話し合い、共同作業」だと言う。

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 こうして引退から2年経った2024年3月、18歳となっていたアリサは現役復帰を表明した。そこから10カ月で全米選手権2位、世界選手権優勝、翌2026年の全米選手権2位と、奇跡の復活劇を遂げた。そして、ミラノ・コルティナ・オリンピックにて金メダルを獲得した。アメリカにとって実に24年ぶりの女子シングルス金メダルだった。

©JMPA

 コーチは「天才という言葉はあまり好きではない」と前置きした上で、「アリサはタイガー・ウッズ、セリーナ・ウィリアムズ、シモーネ・バイルズといった偉大な選手たちと肩を並べる存在だと本当に思います」と語っている。

 オリンピック翌月の3月、アリサは世界選手権に出場する予定だった。しかしアリサは欠場を決めた。代わりにニューヨークでの雑誌撮影をこなし、パリでのファッションショーに出掛けた。瞬間瞬間を楽しむとともに、“セレブ”は楽しいだけではないことも学んだ。パパラッチに追われ、常にファンに囲まれる不自由さも知った。