北京五輪後に引退を決意した理由

 何日もリンクに行けない日々に最初は戸惑ったものの、やがて「これ、いい!(I love it!)」から「もう滑りたくない」となった。なぜなら、そもそもアリサは大会で競い合うことに関心がなく、滑ることへのモチベーションを持てていなかったのだ。

 しかし、この時も周囲の大人が手はずを整えてしまった。アリサは故郷カリフォルニア州を離れ、コロラド州にあるオリンピック・トレーニングセンターに独りで住むこととなったのだった。センターから近くにある練習場までUberで往復する日々。しかもコーチは自宅にいて、リンクにはアリサただ独り。14歳の少女にとって4人の弟妹に囲まれてのにぎやかな暮らしからの変化は、どれほど辛かったことだろうか。

 やがてコロナ禍は終わったが、相変わらずプログラムの曲、振り付け、衣装、ヘアメイク……アリサには何の決定権もなかった。これら全てが重なり、アリサは北京オリンピックを終えた後、16歳で引退を決意し、誰にも相談することなく決行したのだった。

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アリサ・リュウのインスタグラムより

復帰を喜んだ父に「腹が立った」

 金メダル後のローリングストーン誌のインタビューで引退と復帰についての父アーサーの反応を質問された際、アリサは厳しい答えを返している。曰く、復帰した時、「父は喜んだ」ことに「腹が立った」。なぜなら引退した時に「父は怒った」から。アリサは父について、「よくもそんな態度が取れるよね」とさえ言っている。かつ復帰後は、父はアリサのスケートに関わっていないとも語った。これについて父アーサーは「少し傷ついた」と、『60 Minutes』のインタビューでやや自嘲気味に答えている。突然の引退/復帰の発表をおこなった時、父と娘の間でどんな会話(議論もしくは口論)があったかは、当人たち以外に知る由はない。

 しかし、アリサは父を尊敬もしている。自分がこれほど自立した人間なのは「父が私をそう育てたから」、加えて父は世間の常識にとらわれず、勇敢だとも語っている。また、自分が社会的、政治的な意見を持ち、時にはデモにすら参加するのも父の影響だと説明している。あるインタビューで、アリサは今は「大変な時代」になっているが、「どの政府もそれぞれ問題を持っている」と、暗にアメリカと中国について語っている。

弟とダンス(アリサ・リュウのインスタグラムより)

 そんなアリサは「RAD DAD」と大きく書かれたTシャツ姿の写真をインスタグラムにポストすることもしている。RAD DAD(radical dad)とは、子供と積極的に関わる“クール”な父親を指すスラングだ。