「似た女性を見た」「犯人が逮捕された」うわさで騒ぎに

 読売は生い立ちからの経歴を掲載。以後、彼女がいた土地の地元紙も過去を報じるように。「名古屋に轉籍し 中村(遊)廓で娼妓稼ぎ」(20日付新愛知朝刊)、「飯田にも居た」(20日発行21日付信濃毎日夕刊)、「十九の花(はず)かしい頃 富山市で左褄(芸妓をすること)」(23日付北國朝刊)。

 そして騒動はデマを生む。「“妖女出現”・噂に沸く巷」が見出しの20日発行21日付読売夕刊の記事。「突如快報がもたらされた。『10時ちょっと前、犯人が銀座・資生堂裏の髪結い(美容院)カーソンに現れた』というのである。それ! とばかり(捜査)本部から各署に緊急手配したが、これはちょっと似ていたというだけで、赤の他人というナンセンスまで織り込まれる緊張ぶりだ」。

「定が現れた」とのうわさを聞いて銀座の美容院周辺に集まったやじ馬(読売新聞)

  東朝も「“お定の影”氾濫」の見出しで、銀座のほか、神田、東京駅、芝区(現港区)、日本橋で「似た女性を見た」「犯人が逮捕された」などのうわさで騒ぎになったことを伝えた。多くの新聞が銀座の美容院の前に集まったやじ馬の写真を載せている。しかし、その騒ぎも終わる時が来る――。

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「稀代の妖女」逮捕へ

怪奇殺人事件の妖婦 阿部定遂に逮捕さる」(東日)、「稀代の妖女阿部さだ 品川驛(駅)前旅館で捕まる」(報知)。2紙は20日夕、号外(東日は2本)を出した。東日2本目の記事の主要部分を見る。

 市内に出没すること3日、捜査当局もようやく焦慮の色を示してきた20日午後5時半ごろ、犯人定が芝区高輪町76、旅館品川館に潜伏中を高輪署安藤部長刑事が検索のうえ発見。所持品たる石田吉蔵君の猿股(さるまた)​、メリヤスシャツ、缶切り包丁及び切断した局所によって明らかに犯人定と判明。本署に同行、捜査本部に急報した。

逮捕を報じる東京日日号外

 旅館に臨検に訪れた安藤部長刑事が、宿帳に「37歳」と書いた女が32~33歳に見えるというので不審に思い、面会した時の様子を21日付読売朝刊はこう書いた。