入り口の門の横には、警備員らしき男が2人立っていた。ケニアの田舎の女子校を訪問する外国人など明らかに怪しいのだが、校内に入って話を聞き「ここではないこと」を確かめたい。観光客を装い、ニコニコと愛想良く振る舞って何とか通り抜けた。

 校内はなんの変哲もない普通の女子校で、制服を着た生徒たちが授業を受けている。陸上の名門校らしき雰囲気は微塵も感じられない。

「日本にはたくさんケニア人のランナーがいるんですが……」「え、そうなの?」

 一通り校内を見学した後、職員室を訪問する。校長が時間を割いてくれるらしく、取材の目的を説明する。

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「日本にはたくさんケニア人のランナーがいるんですが……」

 しかしこの時点で、「え、そうなの?」と眉間に皺を寄せた表情になった。その事実すら知らないとなれば、その後の回答も予測がつく。案の定、「うちが陸上の名門校だなんて、全く知りませんね」という返答が返ってきた。

 仙台育英を卒業したサムエル・ワンジルは、ケニアのスーパースターだ。性別は異なるが、日本で言えばシドニー五輪のマラソンで金メダルを獲得した高橋尚子のような存在である。ある年齢以上のケニア人であれば誰もがその名を知っている。

写真はイメージ ©アフロ

 そのワンジルがかつて日本の高校に留学していたこと、その前にガル高に在籍していたはずだと必死に伝えても、「彼は地元が全く違う。君は何を言っているんだ?」という返答だった。

 その通りである。確かに、ワンジルはランナーが多いニャフルル周辺の出身で、この学校があるケルゴヤとは約150キロも離れている。高校生がわざわざそんなに遠くの学校まで通っていたとは考えにくい。それは私も疑問だった。しかし、調べる限り「Ngaru」と名のつく高校は、ここしかないのだ。

 もういいですかと言わんばかりの迷惑そうな雰囲気が、校長から伝わってくる。それはそうだろう。いきなり日本人が訪ねてきて、「あなたの高校はあのスーパースターの出身校ですよね?」と見当違いな質問をされたら、誰もがそのような反応になるはずである。自分自身もその状況が面白くなり、苦笑しながら礼を告げて、部屋を後にした。