神に選ばれた女性患者

「悪霊がついております」

 X県の中心部に位置するJRの主要駅からクルマで40分ちょっと。市街地のざわめきがゆるやかにほどけていくと道はゆるくカーブし、その先に三王子病院の白い建物群が現れる。周囲は民家に囲まれているが、建物の裏手には病院を覗き込むように小山の斜面が迫る。最寄り駅からは徒歩で20分を要するため、来院者はたいていバスかクルマでやってくる。

 診察室の呼び出しボタンを押して、受付番号を読み上げると、30代の西田涼子さんが、初老の母親に付き添われて入室した。険しい表情で席に腰を下ろした彼女はトレーナーとジーパンという出で立ちだが、上着にはところどころシミ汚れがあり、胸までかかる長い髪はパサついて傷んでいる。

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「今日はどうされましたか?」

「私はこんなところに来る必要なんかないと思っています」

 西田さんが素っ気なく答えると、隣の母親が怯えた目で訴える。

「この子、霊を感じると言うんです。『悪霊がついているからお祓はらいをしたほうがいい』って、私も1時間以上も正座させられます。霊が取りついてるからとほとんどご飯も食べません」

「私は“神”から選ばれた特別な存在なので“悪い波動”を感じれるんです。母は凡人だから、私の行ないの重要性がわからない。母も父も不吉な波動が出ているから除霊が必要です」