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「はい⋯⋯はい、そうです。この者にも悪霊がついておりますか? では、お祓いが必要ですね」
彼女は顔を虚空に向けたまま、誰かと対話している。おそらく彼女だけに聞こえる幻聴があるのだろう。その言動を精神症状として冷静に査定しながらも“悪霊”という単語に惹かれ、ロシアの文豪を思い出す。私には患者の幻聴や妄想を一種のエンタメとして楽しんでしまう悪い癖がある。
彼女の病名は⋯
私は母親から詳しく症状を聞き取り、カルテに記載しながら、情報を頭の中で整理する。自身を選ばれし除霊師と信じ、他人の霊を祓うことが使命だとの思い込みは妄想である。彼女だけに聞こえる神の声は幻聴で、その声に操られているような行動も見受けられる。統合失調症だ。
西田さんは妄想に従って刃物を振り回しており、放っておけば、母親を切りつけるかもしれない。私は入院治療が必要と判断を下す。
「西田さんは統合失調症の可能性があります。入院して治療を進めたほうがよさそうです」
「先生、お願いします」と母親はすがるように頭を下げるが、西田さんはお祓いをやめ、こちらに食ってかかる。