「どうせうまくいかない」「頑張っても無駄」と、自分で体験する前に結果を悟ってしまう若者世代には、「人生のネタバレ感」や「冷笑」が蔓延している。極端な俯瞰から生まれるそうした感覚は、私たちの心や仕事にどのような影響を与えているのだろうか。

 現代のビジネスパーソンが抱えるリアルな悩みに「理論」と「笑い」で答えを与えてくれるビジネス書『理不尽仕事論 「クソが!!」と思った時に読む本』の著者であり、人材育成のプロである坂井風太さんをお呼びし、職場で使える「架空師匠」という考え方や、自らを呪う「冷笑主義」の罠について深く掘り下げます。(全2回の2回目/1回目から読む

【令和の理不尽仕事論】管理職の闇堕ちを防ぐために|役職鎮座マンにならないためのマインド|Z世代が感じる「ネタバレ感」の正体【坂井風太】

(初出:「文藝春秋PLUS」2026年5月18日配信)

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思考を熟成させるための「架空師匠」

――仕事が辛い時の心の支えになるキーワードとして、『理不尽仕事論』の中に「架空師匠」という言葉が出てきますね。これはどういうものですか?

坂井風太(以下、坂井) ロールモデルという概念がありますが、実際のロールモデルとの心理的・物理的距離が実は重要なんです。例えば、「身近な上司の言うことを全部聞かなきゃいけない」と思いすぎると切羽詰まってしまいますし、その上司の言うことが常に正しいとも限らないですよね。そこで、少し美化されたり架空化された存在である「架空師匠」です。「自分の尊敬するあの人だったらどうするだろうか」と考えるんです。こちらの方が突破口を開きやすいという研究があり、それを私がライトな表現として「架空師匠」と名付けました。

――これはどんな人を架空師匠にしてもいいんですか? 

坂井 もちろんです。人の悪いところではなく、良いところを見つけようと思っていれば、無限に架空師匠ができてきます。一人に絞る必要はなく、複数持っていた方がいいですね。その時々で解決の突破口となる「思考の道具箱」の中身が架空師匠です。

坂井風太さん

――本書の中でも、坂井さん、ぐんぴぃさんそれぞれが何名かあげておられますよね。

坂井 私も複数いますし、増えていますね。最近も、ずっと笑顔で大きく頷いてくれる社長さんにお会いして、「自分が場を作り、明るい雰囲気を作ることが役割だ」と仰る姿勢に感銘を受けたので、その方を見習って私も今口角を上げています。その架空師匠が入ってきているのだと思います(笑)。

――若い人にももちろん大切ですが、中間管理職の方にも必要ですよね。

坂井 むしろ中間管理職にこそ必要ですね。中間管理職の本当の役割は、上司に従うことではなく、上司が成し遂げたいことに従うことです。したがって、イエスマンになるのではなく、尊敬する経営者でも漫画のキャラクターでも良いのですが、「あの人ならどう考えるだろう」と思考を巡らせないと、ただの上司の劣化版コピーになってしまいます。複数の架空師匠の思想を掛け合わせることで、思考を熟成させ、独自の思考ができるようになるんです。

『理不尽仕事論 「クソが!!」と思った時に読む本』

――ちなみに坂井さんの架空師匠は?

坂井 たくさんいますが、父親と南場智子会長(現・DeNA代表取締役社長)ですね。父親は、経営していた会社が倒産して自己破産したのですが、一番辛い時に逃げなかった。対立したこともありますが、その点は尊敬しています。悩んだ時は「父親だったら粘り強くやるよな」「へこたれないよな」と考えます。

 また、前職のDeNAでお世話になった南場会長の場合は「南場会長なら『そんなちっちゃいことなんて気にすんなよ』って言いそうだな」と。自分の悩みを考えすぎない方がいいと考えられるのは、南場会長という架空師匠のおかげですね。