「男はライター、女はマッチ」などという。一度消えてしまった火が再び灯ることはないと経験から知っていた私は、潔く身を引くことにした。
離婚届にサイン
電話でのやりとりから数週間後、久しぶりに家に戻ってきた妻と一緒に離婚届にサインをした。こうして私の結婚生活はわずか1年足らずで幕を閉じた。
これまでの人生で女性には何度も振られてきた。そのたびに立ち直ってきたし、今回も大丈夫だろう。そんなふうに考えていた私は早々に打ちのめされることになる。
生活の端々からじわじわ寂しさが這い上がってきた。もともとほとんどの時間を自分ひとりですごしていたにもかかわらず、家に帰ると恐ろしいほどの静寂を感じた。彼女の荷物が消えた部屋は、以前より何倍も広く、寒々しかった。恋愛における別れと離婚とはまったく別物だった。
自分が思っていた以上に妻に依存していたことに気づかされた。真摯に医療に向かう姿勢、プライベートで見せる無邪気さ、私のつまらない冗談を拾ってくれる優しさ⋯⋯。どういうわけか、記憶には彼女の良いところばかりが残った。
大好きなバンドの失恋ソングを聴いても、ただただ鬱陶しく、早く消したくなった。以前はあんなにも自分を鼓舞し、癒してくれた歌にまったく心が動かなくなっていた。
彼女が荷物を引き払ってから数週間後、タンスの引き出しに彼女の寝衣を見つけた。何かの折に紛れ込み、気づかないままになっていたらしい。それを手に取った瞬間、胸がえぐられ、その場に立ち尽くした。