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『神の棘』文庫版は単行本の執筆時より冷静に
――第1巻の第1章は、単行本ではアルベルトの視点から書かれていたものが、文庫版ではマティアスの視点からに代わっていますね。それによってある事実が読者にも隠されて、驚くことになる。
須賀 どうせアルベルトの内面を書かないのであれば、マティアスを主人公にして、彼の側から物語を見ていったほうが分かりやすくなるだろうと思いました。ただ、具体的にどう書くか固まるまでに時間がかかりました。
――二人の男性の人生を通し、ナチス、そして戦争のむごさが生々しく描かれています。子供たちがバスで連れ去られる場面や戦場のシーンなど、胸を締め付けられる場面がたくさんあった。本当にこういうことがあったんだなってつくづく思って、改めて愕然としました。
須賀 単行本の時は、自分が書いている出来事についていちいち深い怒りを感じていました。のめり込み過ぎて知恵熱が出て、やたら消耗したんですよ。だから作者として冷静に計算ができていない状態だったので、文庫では少し冷静になろうと思いました。凄惨なシーンも少し和らいでいるはずなんですよね。でもやっぱり凄惨でしたか(笑)。
――はい、やはり迫力ありました。史実に基づいていると思うだけでやっぱり辛いので。もちろんそれだけではなくて、人間ドラマ、謎の設定、意外な真相など、エンタメとしても読ませる作品でした。
須賀 今回、編集者に助言をいただいて、登場人物のバックグラウンドの補強を心がけました。たとえばマティアスは修道士ですが、単行本の時はとにかく直情径行でまず身体が動くタイプだったので、あまりにも修道士ぽくないだろうということで(笑)、ちょっと修道士らしい行動をさせたりとか(笑)。