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野球好き、歴史好きから小説へ

――今年は『革命前夜』と『神の棘』というものすごい力作を連続して出されたと思ったら、また新刊が出ましたね。『雲は湧き、光あふれて』(2015年刊/集英社オレンジ文庫)は高校野球を題材にした短篇を集めた作品集。須賀さんの野球好きは有名ですよね。

雲は湧き、光あふれて (集英社オレンジ文庫)

須賀 しのぶ(著)

集英社
2015年7月17日 発売

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須賀 有名なんでしょうか(笑)。たしかに好きですね。これは3篇載っていますが、「ピンチランナー」が5年前、表題作の「雲は湧き、光あふれて」が10年前に書いたもので、「甲子園への道」が書き下ろしです。

――え、10年前? これはどういう経緯で本にまとまったんですか。

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須賀 オレンジ文庫で何か書かないかとお話をいただいた時に、「今は一冊書く時間がないけれど、以前『コバルト』に書いた野球ものの短篇が2つあるから、それはどう?」って冗談半分で言ったんですよ。オレンジ文庫って女性向けのライト文芸なので、野球ものが通るわけがないと思って。

――そもそもその野球ものは、少女小説誌の『コバルト』に掲載されたんですよね。よく案が通りましたね。

須賀 ええ。浮いていましたけれど。昔の『コバルト』はメイン読者が女の子であることを踏まえていれば、わりと何を書いてもよかったんです。むしろ、自分の書きたいことをどうやって少女向けの枠におさめるかが楽しいというか。高校野球なら女の子のファンも多いから、と言って書かせてもらったんです。それで雑誌には掲載できたけれどさすがに本にはできなくて、今までどこにも収録されていなかったんです。オレンジ文庫の担当者も最初は「野球かあ」と微妙な反応でしたが、しばらくしたら「やりましょう」と言われて、こちらのほうが驚きました(笑)。

――野球が好きだから、小説に書きたいと思うわけですか。

須賀 野球って小説にしやすいんです。『コバルト』に書いていた頃、たまにはサッカーを題材に書こうと思ったら、全然心情とうまく絡められないんです。サッカーって、一瞬一瞬の競技だから。

――ああ、野球だとマウンドに立ってからとか、バッターボックスに入ってからなど、ある程度の時間の流れが描けますよね。サッカーの技は一瞬だけど。

須賀 そうそう、それで駆け引きがあるんです。野球って基本的には心理戦なんですよね。だから、もともと野球が好きだということもありますが、やはり試合の場面を書くのがとても楽しいですね。

――野球好き、歴史好きは昔からですよね。歴史に関しては、最初、小学校高学年の時に家にあった吉川英治さんの『三国志』(1940年~/講談社など)を読んでハマったそうですね。

 

須賀 そこから柴田錬三郎や陳舜臣の「三国志」を読み、他にも「水滸伝」なども読みました。父が好きだったので朽木寒三の『馬賊戦記』(徳間文庫)といった、大陸の馬賊の話なども読みました。その後、小学校の高学年の時に読書友達と「大人の本を読もう」という話になったんです。それで家にあったロシア文学全集を読んで分かったつもりになり(笑)、他にも日本の古典や海外の本も読もうと言って、二人で競いあって読みだしたんです。友達はその時に太宰治にハマったんですが、私は全然駄目で、ケンカになったりしました。「じゃあ、海外の作家で太宰っぽい人はいないのか」という話になって、「よく分からないけれどドイツってそれっぽくない?」となり(笑)。ヘルマン・ヘッセやトーマス・マンの青春小説を読むことにしたんです。ヘッセは面白いんですけれど、すごく美しくて「おお、そうか」というだけで終わってしまって。でも中学1年生の時に読んだトーマス・マンの『トニオ・クレーゲル』にはハマりました。あれはもう永遠の中二病小説ですね。読んだ時の、自分自身の背伸びしている感じ、社会や周りを多少馬鹿にしないと自分のアイデンティティを守れない感じなどがズバリ書いてあって、「なんかすみませんでした」という気持ちになりました。そこから急にトーマス・マンはじめドイツ文学を読み始めたんです。

――そこからドイツ哲学も読むようになったんですね。

須賀 はい……。

――あれ、なんか言いたくなさそう。

須賀 あの頃、私自身が中二病だったので、この話をするたびに寿命が縮まる思いがする(笑)。言い訳をしますと、トーマス・マンなどがロマン主義やドイツ哲学の流れをくんでいるので、遡っていく時に、どうしてもニーチェとかショーペンハウエルとかを避けて通れなかったんです。で、読むとやっぱり、あのへんは中二病にはたまらないんですよね。

――そこまで恥ずかしがる話ではないと思いますが?

須賀 いやいやいや。読んで内に秘めていたらいいのに、中二病っぽい言動をしていたんですよね。それを思い出すと……ああ、死にたい(笑)。

――どんな言動だろう(笑)。それらを読んでいくうちに、ナチスに行きついたんですか。

須賀 そうです。そういう思想がナチスにも利用されていたので。『神の棘』にも書きましたが、ニーチェのいちばん有名な「ユーバーメンシュ(超人)」を、ナチスが曲解して用いていて、それで「え、どういうことかな」と興味を持ったんです。そこからナチスの本を読むようになり、一番影響を受けたのはウィリアム・L・シャイラーの『第三帝国の興亡』(松岡伶訳、2008年刊/東京創元社)です。

――そこからナチスに詳しくなっていった、と。もともとドイツだけでなく、世界史全般がお好きですよね。

須賀 そうです、歴史が好きです。高校時代も「世界史の授業だけ起きてたね」とよく言われていました。