今となっては懐かしいこの年の紅白は、例年と違ったたたずまいだった。

まずNHKホールが工事中のため、会場は東京国際フォーラム。そしてコロナ禍ということで、観客は間引かれ、非常に寂しい空気感の中で開催された。

後半戦の途中、紅組・坂本冬美『夜桜お七』のあとを受けて、藤井風が、奇妙な形で画面に現れる。

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まずは岡山県の自宅から『きらり』を歌う。キーボードを足に乗せての、実にラフな形での演奏と歌。しかしこれが聴かせる。ラフながら確かなボーカルも魅力だったのだが、私が注目したのはキーボードの演奏だ。

指のタッチが強く、また細かいリズムを完全キープする。妙な表現だが、鍵盤が指にまとわりついている感じすらする。幼少期から呆れるほど鍵盤を叩き続けた者だけが醸し出せるグルーヴだと直感した。

そしてカメラは急に東京国際フォーラムへ。画面右上に「LIVE」の文字。藤井風がゆっくりとステージへ。視聴者にとっては、岡山の自宅から、突然会場にワープしたように見えたのだ(種を明かせば、自宅映像は収録済だったという映像トリック)。

上手いというより「強い」と感じた理由

突然のサプライズに、会場だけでなく、司会や審査員も驚く中、グランドピアノの前にすっと座って『燃えよ』を弾き語る。

パフォーマンスは圧巻だった。とくにピアノ演奏にシビれた。楽器は自らの弾くピアノだけという逃げ場のない生演奏なのに、鍵盤をまったく見ずに(ここがすごい)、自らの両手を叩き付け、時にはカメラ目線も交ぜる余裕を見せ付けながら歌い続ける――。

いわば「上手い」というより「強い」演奏。その瞬間、藤井風が、紅白を完璧に牛耳った。藤井風で1曲挙げるとすれば、私なら、このときの『燃えよ』だ。

藤井風についてほとほと感心するのは、圧倒的なピアノ演奏に象徴される身体性、フィジカルである。理屈で音楽を再生しているのではなく、身体から音楽が噴出している感じがするのだ。「体幹の強い音楽」だと、いつも思う。これまた妙な言い方だが。