大洗磯前神社は平安時代初期の創建と伝えられ、祀られている大己貴命は境内の前の岩礁に降臨した……などという話も残っている。その岩礁には、いまも小さな鳥居があって観光客のお目当てになっているようだ。駅前には皆無といってよかった観光客も、それなりに見かけることができる。老夫婦から海沿いを散歩するカップルまで。
江戸時代から漁業基地・物流基地になっていた大洗。当時は「磯浜」といったこの町は、ただの漁師町などではなく、大洗磯前神社の門前町でもあった。また、沸かした海水に浸かる「潮湯治」なるものが流行し、それを目当てに訪れる人もいたという。観光都市・大洗の原点はそこにあり、というわけだ。
60年前に消えた“幻の電車”とは
明治になって近代的な海水浴が普及すると訪れる人もますます増えて、名の知れた文化人が保養地として別荘を構えるほどになった。さらに一層大洗の名を高めたのは、1920年代前半、大正時代に開通した水浜電車だ。
水戸と磯浜を結ぶことから名付けられたこの電車が開通したことで、“交通難”という大洗の弱点が解消。ますます人気の保養地になっていったのである。ちなみに、水浜電車の大洗駅は大洗磯前神社のすぐ近く。鹿島臨海鉄道の大洗駅よりも、だいぶ中心部に近かった。
大洗の名を高めた水浜電車は、1966年に廃止されている。これで“鉄道のない町”に逆戻り……といっても、この頃にはマイカーの普及も進んでいて、大きな問題はなかったようだ。むしろこの頃には築港計画が本格化しはじめており、1985年には鹿島臨海鉄道が開通して鉄道が復活。2002年には現在のアクアワールドが開園し、2012年にガルパンだ。
……と、まるで計算尽くかのように、タイミング良く時代の波に乗って観光都市・大洗が完成したのである。そんな大洗の中心、大洗磯前神社までは駅から歩いて30~40分ほどといったところだ。
だから、鉄道よりもマイカーで訪れる人が多いのだろう。が、古き商店街を歩き、古墳を見上げ、また港に北海道の息吹を感じたりするのも悪くない。
撮影=鼠入昌史



