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カトウからは、世間に根付いた「地面師事件」のイメージとは異なる、新たな事件の側面を聞ける予感がしていた。また週刊誌記者として日々あらゆる事件を追いかけている私だが、「ひとつの事件に向き合い、ひとりの男の人生をじっくり聞いて書いてみたい」という願望もあった。
私の記者としての「書きたい」という欲と、巨大な事件の中の小者というカトウの立ち位置が妙にマッチしたことから、取材の道のりが始まった。
五反田の「時価100億円の土地」
積水ハウスが17年に地面師たちに騙された事件の舞台となったのは、「海喜館」という老舗旅館が建つ土地だった。事件の際の報道等では読み方は「うみきかん」とされたが、地元の人は「かいきかん」と呼んでいた、という証言もある。
JR山手線五反田駅から徒歩3分、目黒川沿いにある約600坪の広大な敷地で、うっそうと茂る木々の中に幽霊屋敷さながらに残る建物は、古くからの地域住民以外には「謎の建物」と映っていたはずだ。
その不気味な見た目とは裏腹に、桜田通りを目前にした抜群の立地にあるこの土地は17年時点で「時価100億円」とも評価されていた。多くの不動産デベロッパーやブローカーが狙っていたが、地主はそうした誘いに耳を貸さない「売らない地主」として知られていた。
