事件当時の土地の所有者は海老澤佐妃子氏で、「海喜館」の女将でもあった。彼女がなぜ長年この土地を売らなかったのか、故人となった今ではその真意はもはや知る由もないが、結果的に一等地を活用もせずに売らずにいたことで、地面師たちに目をつけられた。
「海喜館」の土地が詐欺に遭った理由のひとつが建物の“無人化”である。海老澤氏は事件直前の17年2月頃から病気で入院しており、海喜館は一時的に無人となった。彼女は海喜館を経営する海老澤家に養女として迎え入れられた人物だという。親違いのきょうだいがふたりおり、そのふたりも近隣に住んでいたわけではなかった。そのため館に何者かが侵入しても気づかれにくい状況だったことも災いした。
「難攻不落の土地」が狙われた理由は「法改正」にあった
「売らない地主」が所有する難攻不落とされた土地をなぜ地面師は狙ったのか。カトウが言う。
「05年に不動産登記法が改正されて、土地の権利証が廃止された。これによってほとんどの不動産は12桁の『登記識別情報』でデータ化された。だが、古い建物や所有者の意向でいまだにデータ化されずに紙の権利証で管理されている土地がある。
『海喜館』の土地がまさに紙の権利証で管理された土地でした。紙の偽造は地面師にしてみたら容易いことです。その詐欺のスキームはデータ化以降、もはや地面師の間では当たり前のように定番化されたものですから」
“なりすまし”である偽の地主を用意する地面師たちは、不動産取引で本人確認に用いられる「書類」の弱点を悪用する。