積水はこの土地を買取後、同社のマンションブランドのなかでも資産価値が高いとされるシリーズのひとつ「グランドメゾン五反田(仮称)」を建設する予定だった。同年6月1日に本登記の申請が受付された。残金が決済されて、結果的に計約55億円が犯行グループ側に渡っている。

 その後、“本当の所有者”の側の「不正登記防止申出」により東京法務局内で実態調査が行われた。そこで申請書類のひとつである国民健康保険被保険者証のコピーが偽造書類のコピーだと発覚し、本登記受理から約1週間後の同年6月6日に申請が却下され、事件が発覚したのだ。

 積水ハウスが詐欺被害を「分譲マンション用地の購入に関する取引事故につきまして」というプレスリリースで発表したのは17年8月2日。警視庁への被害届が受理され、メンバーらの逮捕劇が始まったのは翌18年10月からとさらに先になる。

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いきあたりばったりな事件だった

 この間の経緯は、20年12月になって積水ハウスが公表した総括検証委員会による「総括検証報告書」や関連書籍で詳述されている部分もあるが、カトウについての言及は少ない。単純にカトウが事件の表舞台に出てこない“末端構成員”だったことが理由だが、「連絡役」という役回りゆえに、主犯格、商談の現場に赴く交渉役、そしてなりすましの役者とも接していたカトウの証言は、興味深いものだった。

 検察庁でカトウ自身が受けた取り調べの供述調書(以降「検面調書」)の確認や他の関係者への証言の裏取り取材も進めた結果、私なりに見えてきたのは、事件が多数の人間の思惑が絡み合う複雑な構造になっているだけでなく、要所要所で極めて“突発的”な、いきあたりばったりな動きがあったという実像だった。

 カトウの目線に立って登場人物を整理しながら、まずは17年4月の売買契約に至るまでにどのような“準備”がなされたのか、その経緯を見ていく。