彼女のある口癖

 何年か前に、九州で、ママ友のマインドコントロールによって母親が子どもを餓死させてしまった事件がありました。はじめは「酷いママ友もいるもんだな」くらいに思っていましたが、ふと、房枝さんと私(と夫)は、少なからずああいう関係性を築いてしまっていたのではないか、と気づいたのです。

 もちろん房枝さんはそこまで酷い人ではありませんし、何も起こっていませんが、私は、あの事件が他人ごとには思えません。

「もっと勉強するべき」。「もっと広い世界を見るべき」。

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 そんなふうに、彼女はよく「~べき」という言葉を使っていました。「アキちゃんにはこんな服は似合わない」とか、夫の悪いところをどう直したらいいかというところまで、今思えば、ずいぶん支配的なことを言われていたと思います。「良かれと思って」言っていたのだろうと思いますが……。

 娘の幼稚園を通じて、私にもママ友が増え、新たなコミュニティが広がっていきました。下の娘が生まれたころ、夫は市が開催する創業支援のプログラムを受けて、いよいよ独立への道を進みはじめました。思い切ってチェーン店のベーカリーを退職すると、パンとお菓子のネット販売をはじめたのです。

 ほどなくコロナ禍に入ったのですが、ここで冷凍パンの通販が当たり、夫と私の両親が総出で手伝うほど、忙しくなったのです。背中に次女をおんぶしながら毎日発送作業に取り組みました。

 房枝さんのカフェは休業していたので、パンの納品もなくなりました。子どもたちも小学校に進学し、お祝いをしようといいながら、ステイホームで飲み会もできず、交流も自然消滅という感じになっていました。

 それでもやりとりは続いており、夫の独立を喜んだ房枝さんは、「次は実店舗を」と、おいしいベーカリーやカフェの情報をよく送ってくれました。おしゃれなインテリアにも詳しいので、頼りになります。私もいろいろと相談したくて、「早く会いたいね」とよくメッセージを送り合っていました。