「こんにちは! 大きいほうでやらせてもらっています、大貫です!」

 リモートをつなげた瞬間、飛び込んできた第一声。モニターには、ニコニコと笑顔で目を細める大貫晋一選手の姿。いやはや驚きました。新型コロナの影響で対面取材ができなくなった2021年1月。リモートで行われた3度目の大貫選手の取材の時の出来事でした。3度目とはいえ、年に1回ペースでしかお会いしていません。まさか自分のことを覚えてもらっているとは思ってもいませんでした。

 申し遅れました。「横浜LOVEWalker」というムック本で、横浜DeNAベイスターズの記事を担当している小貫(おぬき)と申します。大貫選手風に言うと、小さいほうでやらせてもらっています。前身の「横浜ウオーカー」から横浜DeNAベイスターズを取材し始めて、かれこれ8年目に突入しました。

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 大貫選手は入団したころから個人的に気になる存在でした。まず名前が似ているということ。しっかり調べたわけではありませんが、「小貫」はおろか、「大貫」という苗字のNPB選手は記憶にありません。(大抜(おおぬき)亮祐という選手は2007~2009年に巨人に在籍)。微妙に似ているのは名前だけではありません。誕生日が、大貫選手が2月3日、僕が2月5日。元号は異なりますが、これまた微妙に近い。あとは出身が、大貫選手が横浜市青葉区で、僕が旭区。「あ」まで一緒です(笑)。これはちょっと強引ですね。とまぁ、そんなことから僕にとって、大貫選手はちょっと気になる存在だったのです。

 ちなみに大貫選手に自分の名前が「小貫」であることを伝えたのは、初めて取材を行った時です。「小貫さんという方には、初めてお会いしました。誕生日も近いし、ちょっとずつ違うというのも面白いですね」と、細い眼をちょっとだけ見開き、少し驚いたようすでした。

大貫晋一 ©小貫正貴

大貫は「フツーのおじさん」「ザ・社会人」

 大貫選手に行った初めてのインタビューは、プロ1年目の2019年5月24日、横浜スタジアムでした。地元密着を掲げる横浜ウォーカーは、毎月ベイスターズの若手選手一人を2ページに渡って紹介していました。スポーツ専門誌ではありませんから、野球以外のこともたくさん聞くし、私服の撮影もさせてもらっていました。大貫選手は前月の4月11日にプロ初勝利を挙げており、これは話を聞かねばとなったわけです。

 初夏の強い日差しの中、まぶしそうにグラウンドに現れた大貫選手は、黒いTシャツに黒いゆったりしたパンツ姿でした。Tシャツの背中には、何か大きな模様がプリントされています。聞いてみると、大好きなバンド、ELLEGARDENのツアーグッズなのだと教えてくれました。

 お気に入りの私服を撮影させてほしいというお願いは、広報さんを通じて事前に連絡しています。それまでもTシャツで登場した選手は何人かいましたが、ほとんどが有名ファッションブランドや、スポーツブランドのものでした。

 今回のようなパターンは初めてで、正直少し戸惑いました。かといって、ファッションに興味がないわけではないようで、実際この取材時も「今ハマっているもの」としてスニーカー収集を挙げ、日本未発売のコンバースのスニーカーを自慢していたのです。

「今日のポイントはスニーカーじゃなくて、Tシャツのほうです。活動を休止していたバンドが、去年(2018年)の5月に10年ぶりに復活して、ライブツアーを行ったんです」

――なるほど大好きなバンドの活動再開がうれしくて、ライブでTシャツを購入したんですね。

「いえ、僕は野球が忙しくてライブには行けませんでした。でもライブに行った友達が、“これ、大貫に”って、買ってきてくれたんです」

 そう話す大貫選手は、目を細めながら実にうれしそうにTシャツの肩のあたりを撫でています。その姿を見て気づきました。この人は、高価なブランドものよりも、友人が自分のために買ってきてくれたTシャツを大切に思える人なのだと。

 2度目の取材は2020年1月28日。神里和毅選手と齋藤俊介選手(2021年引退)と、同級生3人で温浴施設を楽しむようすをレポートするという企画です。

 寒風吹きすさぶ横殴りの雨の中、浴衣姿で足湯に入ってもらったり、ゲームコーナーの卓球やレースゲームで対戦してもらったり。対戦は、卓球もマリオカートも大貫選手が圧勝しました。悔しがる2人を前に、少し遠慮気味にガッツポーズをとる姿が印象的でした。そして最後に3人それぞれに、お互いの印象を語ってもらった時のことです。

齋藤俊介と大貫 ©小貫正貴

 大貫選手は「カミ(神里)は超イケメン、齋藤はギャグの師匠」と2人を立てる発言をするのですが、2人からの大貫選手の評価はなんと「フツーのおじさん」「ザ・社会人」というもの。お風呂に関する質問に「サウナが好き」と発言すれば、「あ、フツーにサウナにいそう!」「違和感なくなじんでいそう!」と、イジリ倒されます。

 同い年の選手にオッサン扱いされながらも、反論をするわけでもなく、ただニコニコとほほ笑む大貫選手。その場の雰囲気が本当に楽しいようで、ただでさえ細い目がさらに細くなっていきます。自分をカッコよく見せようとか、そんな素振は微塵もありません。自分がネタになることで、この場が盛り上がるならそれでいい。柔和な顔で飄々とたたずむ大貫選手の姿に、なんだか懐の深さを感じてしまいました。